無事、獣医師国家試験にパスしました。
まだ獣医師免許は届いてないので、獣医師を名乗れませんが、普通に仕事してます。
コロナの影響で例年より交付が遅れているらしい。
ところで今、
BSAVAという英語のテキストを使って獣医学を学ぶオンライン勉強会に参加しています。
主催者の方が提示したテキストページを要約してまとめる、という基本スタンスで既に数回経ちます。
獣医学生がメインですが、中堅〜ベテラン獣医師の方も参加しており、非常に勉強になります。参加してよかった。
主催者の方の努力で、米国獣医麻酔科専門医レジデントにアテンドした日本人の先生による、麻酔学講座が開催されることになりました。(英語開催)
勉強会に参加してなかったら絶対巡り合わなかった機会なので、とても幸運です。
やはり広くアンテナ張ることが大事ですね。このコネクションから、研究のきっかけを作れたらいいな。
んで本題。
記念すべき麻酔学講座第一回は、麻酔学の意義について。
学生もいるので、basicな部分メイン。
講座を担当した先生によると、周術期の死亡率は犬で0.05%、猫で0.1%、馬で1%になると。
この種差はなんだろう?解剖学的な違いがあるのかな?とおもって質問しました。
理由はいくつかありそうで、
一つは解剖生理学的な差異:
猫は心臓が犬より小さい*1
→心臓の予備能力が犬>猫*2
→周術期の循環動態変化への抵抗性は猫より犬のほうが強い
→周術期死亡率は犬のほうが低い
という感じ。なるほど。
2つ目、そうか!となったのが、そもそもの知見の数。
猫の周術期死亡率や麻酔に関連する研究は、犬に比べて少ない(実験動物として選択されやすいのも犬>猫)ので、結果として犬のほうが麻酔に関する知見が積み上がっており、周術期管理も洗練されているのだろう、ということかな。
こういう歴史的なバイアスによる差異は、探したらたくさん出てきそう。根本を詰めたら、薬物への感受性の違いとか、結局生理学的な違いに行き着くんだろうけど、こういうgapは研究の良い種になりますね。
獣医は扱う対象が広い分、開拓していない研究テーマがたくさんあるなと、改めて思う。
実験動物で犬のほうが猫より選択されやすい理由、もちろん動物としての扱いやすさもあるんだろうけど、犬のほうが先行研究あるから、犬使おう、みたいなpositive feedbackの影響もあると思う。
だんだん合理的な理由から離れて、伝統的だから、という理由で動物種を選ぶようになってしまったらおしまいだよなぁ。
アタリマエにとらわれないで理屈で系を組み立てるの、労力いるし、しんどいだろうけど、大事だ。
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追記:
周術期死亡率の動物種差に関する論文みつけた。
多分先生が冒頭で紹介した死亡率もここから引用していると思う。
獣医麻酔界隈では有名な論文なのかな。(獣医系の論文では珍しく引用数多い)
The risk of death: the confidential enquiry into perioperative small animal fatalities.
面白いなって思ったのは、 以下
In healthy dogs, cats and rabbits, the risks were estimated to be 0.05% (1 in 1849, 95% CI 0.04–0.07%), 0.11%, (1 in 895, 95% CI 0.09– 0.14%)
中略
In sick dogs, cats and rabbits, the risks were 1.33%, (1 in 75, 95% CI 1.07– 1.60%), 1.40% (1 in 71, 95% CI 1.12–1.68%)
健康な犬と猫における麻酔・鎮痛が原因の死亡リスクはそれぞれ0.05%と0.11%で2倍ほど違うのに対し、病気の犬猫での同リスクは1.33%と1.40%となっているところ。
Discussionで著者らは、
That apparently healthy cats (ASA 1–2) had a two fold higher risk of death than healthy dogs, would suggest either preoperative assessment is poorer and more cats are misclassified as healthy when harbouring signi- ficant disease, or cats are at a greater risk of anaesthetic-related death.
と述べている。つまり、猫は麻酔前検査の正確度が低い(暴れたりするから)。
ゆえに、一般状態を過大評価してしまっている(本当は健康ではない猫を健康だと分類してしまっている)。
これが、健康な犬猫での死亡リスクの差として現れている。
一方、(明らかに)病気の犬猫では、このselection biasは軽減しているはずだから、犬猫の死亡リスク差も縮まっている。
なるほどな〜〜〜。おもしろい。動物の気質バイアスってやつですかね、、
論文では、それ以外にも、猫のほうが概して体格が小さいゆえに低体温症になりやすいとか、喉頭の解剖学的差異について言及してる。