備忘録 as vet.

日々のアイデア、疑問など備忘録的に書きます。Scienceが好きです。

<論文感想>僧帽弁粘液腫様変性の犬におけるうっ血性心不全症状の発症予後予測モデル

犬MMVD derived CHFの発症予後予測モデル

https://doi.org/10.1016/j.jvc.2012.01.008

Reynolds, C. A. et al. Prediction of first onset of congestive heart failure in dogs with degenerative mitral valve disease: The PREDICT cohort study. J. Vet. Cardiol. 14, 193–202 (2012).

無症候性MMVD犬におけるCHF発症の予測研究

 

前半と後半の研究に分かれており、前半(retrospective)では回帰モデルを使ってCHF発症の予測モデル構築と性能評価をし、後半(prospective)では構築した予測モデルの妥当性評価と、更に探索的にリスク因子評価を行っている。

心臓拡大指標(LA/Ao,VHS, LVIDDd/Ao) とNT-proBNPがCHF発症のリスク因子として見つかったと結論づけている。

 

獣医学系で予後予測モデル研究をあまり見ていなかったので記述部分は参考になる。予後予測自体がこの領域でメジャーではない分、用語については丁寧に說明してる感じ。

一方で、モデル構築と妥当性評価、研究デザイン、データの解釈については記述が不足しており、洗練されていない印象を持った。

気になった点は以下:

  • 研究目的とデザインが一貫していない印象。
    予測モデル構築→妥当性評価が目的なのか、リスク因子探索が目的なのか。
    前半と後半で2つの研究を行っており、2つの目的が混在しているせいで論文での首尾一貫性が損なわれている印象を受ける。
    この研究では、やっていることは多変量解析だが、その目的が予測モデル構築なのか、交絡調整してリスク因子を探索しているのか混在していて、結果の解釈も同様に混在しているからわかりにくいのかもしれない。

    予後予測モデルの勉強をしていて、予後予測と、リスク因子探索(リスクの効果量推定)は本質的に別物なんじゃないかと思うようになってきた。
    (やっていることは多変量解析だから同じことをしているじゃんとずっと思ってた)
    前者は、精度良く予後を予測すること”だけ”が目的だから、得られた式とその結果に意味を見出し、その一部である変数一つ一つの意味には重きを置いていない;
    後者は、交絡調整して得られた独立変数とその効果量に意味を見出して、因果推論をすることが目的になる、、、、
    したがって、同じ解析手法を用いていても、変数選択のやり方(Stepwiseで機械的にやるのかDAG書いてDomain知識ベースに選ぶのか)や結果の解釈が異なるのかなと思ったり。
    まだ自分の中で完全に理解できていないから、上手くまとまりがつかない。要勉強。


  • 解析手法は適切?
    • モデル構築の第一ステップ、単変量解析の結果(Table1)みると、欠測データ多すぎ問題。
      HR, LVIDDd/Aoとか7/30しかデータ取得できていないけど、解析に組み込んでも安定性保てるの。。?という感じ。
      最終的には欠測データがないLA/Ao, NT-proBNPが選ばれていたけども。
    • モデルの適合度検定(Hosmer-Lemeshow test)はちゃんとworkしているのか問題。
      この検定はサンプルサイズに依存して検定精度や安定性が大きく変化するが、十分なサイズであることを確認しているのか不明。

    • Prospective studyでの単変量解析、NT-proBNPの効果量めちゃくちゃ小さいけど有意だからって採択して大丈夫?問題。
      NT-proBNPが有意差ありとして多変量解析に組み込んでいるが、OR 95%CIは1.0001-1.0005と、効果量激小さい。でもp-value=0.014だから多変量に組み込んでいる。p-valueのみを見て効果量を見ていない典型例。統計学者に怒られるやつ。
      しかし多変量解析に組み込むとNT-proBNP >1500pMではOR 95%CI 1.37-24.28と激増するのが謎。。交絡の影響が死ぬほどかかっていたということなのか。。?
      そもそも、単変量では連続変数としてOR算出していて、多変量のときは1500pMのカットオフで二値変数としてORを算出しているのか?解析手法の記述が不十分(あるいは僕の知識不足)で謎が尽きない。

       

       

いずれにしても、回帰モデル、多変量解析、もっと勉強しないと論文の批判的吟味もままならないな、と痛感。