備忘録 as vet.

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<論文感想>Pimobendanは猫の肥大型心筋症(HCM)の心機能にどう影響を及ぼすか?

PimobendanがHCM猫の心機能にどう影響を及ぼすか評価したPracebo controlled Crossover RCT

Oldach, M. S. et al. Cardiac Effects of a Single Dose of Pimobendan in Cats With Hypertrophic Cardiomyopathy; A Randomized, Placebo-Controlled, Crossover Study. Front. Vet. Sci. 6, 15 (2019).

http:// https://doi.org/10.3389/fvets.2019.00015

 

Pimoは強心+後負荷軽減作用を持つが、猫HCMでは強心作用が動的閉塞を起こすのではという懸念がある。一方で、観察研究ではpimo投与したHCM猫で生存期間延長が報告されており、猫HCMに対するpimoの有効性は議論の余地あり。

Pimoは強心だけでなく、陽性変弛緩作用を持つことも知られており、この陽性変弛緩作用が猫HCMに良いのでは?という仮説がある。

 

本研究では、これらの知見に基づき、Pimoが猫のHCMに対して動的閉塞をもたらすのか否か、陽性変弛緩作用(拡張能改善)をもたらすのか否かを評価している。

 

方法としては、実験コロニーから作出した比較的若い自然発生HCM猫(メインクーン交雑)で、甲状腺機能亢進症や高血圧は否定済み。

年齢中央値は約4歳だが、臨床的にはHCMは中年齢から認められるので、実臨床と乖離はなさそう。

体重,性別の情報が載っていないのは謎。

方法としては、pimo1.25mg/headを内服させ、sedation(acepro+buto)した上で内服から1h後に心エコー実施→翌日に同様の手順でcrossover。

 

心エコーの結果詳細はTable3に記載あり。

FSは群間で差なし。

LVOT,RVOTともに Vmaxは両群で差なしと結論づけている。

収縮能増加→LVOT速度上昇→動的閉塞 という経路があるはずだから、pimo単回投与1h後にFSが変化しないならば、LVOT速度が変化しないのは納得できる。

先行研究ではpimo投与後12h以降、複数回評価で収縮を評価しているので、

今回の結果は、ただ単純にpimo投与後の評価までの時間が短すぎるのでLVOT速度上昇を検出できなかっただけとも考えられる。

そもそも研究目的自体、pimoによりLVOTが影響するかを評価することにも関わらず、投与後1hでの評価しか見ていないのは、研究デザイン問題なのではないだろうか。

考察でも述べているように、動的閉塞に関連する収縮能はもう少し長いタイムスケールで動くことが予想できるのだから、そのように研究デザインを組むべきではないだろうか。

 

拡張能は組織ドプラで評価している。結論的には、群間で差を認めなかったが、頻脈による影響がノイズになっている可能性を指摘している。

組織ドプラは自分でやったことないので全くその感覚は分からないが、猫の頻脈を抑えること自体、鎮静をかけているとはいえコントロール不能だと思うので、妥当な拡張能評価は相当ハードルが高いのかもしれない。

 

 

全体的な感想としては、

研究デザインに問題あり。

サンプルサイズの設定根拠が不明。
主要評価項目であるLVOT、拡張能ともにデザインの観点から妥当に評価できていない(と思う)。

一方で、そもそも猫の心機能評価を真っ当にやるのは相当難しそう。投薬のコンプライアンス、鎮静による心機能抑制の影響、交感神経活性の影響、心エコー検査自体の変動を抑えることなど、、、

今回は、ランダム化によって上述の変動要因の影響の排除を試みているのかもしれないが、サンプルサイズが少ないために生じる偶然誤差の影響は不明。サンプルサイズの設定根拠を提示してくれたら、統計的な推論が可能だったのだが。

 

偉そうなことをつらつら述べたが、ぶっちゃけ自分で猫の心機能評価研究をやろうとしても、ノイズキャンセルするためのいいアイデアがすぐには浮かばない。相当ハードル高そう。

 

それでも、このような研究で薬効→心機能のメカニズムを解明することで、実臨床で起きる様々な現象を理解するするのには役立つので、そういう意味でこの研究の目指す方向性は意義深いなと感じる。