備忘録 as vet.

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<論文感想>心臓外科手術後の死亡転帰に関する予測モデル3種類の性能比較を実施した論文

心臓外科手術後の死亡転帰に関する予測モデル3種類の性能比較を実施した単施設Retrospective study

https://www.jcvaonline.com/article/S1053-0770(20)31288-X/fulltext

Zhuo, D. X. et al. MAGGIC, STS, and EuroSCORE II Risk Score Comparison After Aortic and Mitral Valve Surgery. J. Cardiothorac. Vasc. Anesthesia 35, 1806–1812 (2021).

 

心臓外科後の予後予測モデルの比較研究。

従来より、STS、EuroSCORE2などの予測スコアモデルが臨床で活用されてきたが、簡単には評価しづらい項目(冠動脈の解剖学的分類、PH指標)があり、使いにくい側面があった

新しく考案されたMAGGIC risk scoreは様々な心血管リスクの予測スコアモデルであり、用いる項目がシンプルなので簡便に使いやすい点が魅力。一方で、心臓外科手術の予後予測性能のvalidationは不十分であった。

 

本研究では、三つの予測モデルの性能をAUC(C-statistics)で評価して、既存の二つのモデル(STS、EuroSCORE2)に比較してMAGGICが非劣性であることを示すことを目的としている。

 

三次高度医療センター(単施設)でのRetrospectiveデータを用いて、2009-2014年の間にMVRかAVRを実施したヒト患者における予後を3つの予測モデルで評価

-主要アウトカムは術後1年死亡の予測識別能(c-statistics)

-副次アウトカムは術後30日死亡のc-statistics

 

ちなみに、c-statisticsは患者をランダムサンプリングしたときに、該当患者で計算された予測スコアを用いてアウトカムを識別できる確率を指す。

理論的にはAUCと一致し、c-statistics=0.5はコイントスと同じ結果、=1で完璧に識別できていることを示す。

岡田先生のnoteがわかりやすい。

note.com

数理的にもう少し踏み込んだ内容であれば野間先生のセミナーハンドアウトもわかりやすい。(ネット検索していたら普通に拾えた)

https://www.ism.ac.jp/~noma/2018-12-07%20JBS%20Seminar%20Kyoto.pdf

 

 

結果としては、MAGGICは他二つの予測モデルと比較してAUCの数値が非劣性であることが示された。

 

感想。

思ったよりも予測識別能高くないなという印象。

30日死亡の予測では最も良いモデル(STS)でc-statistics=0.797でそれなりだが、他のモデルではMAGGICで0.721, EuroSCOREで0.688とパッとしない。

さらに1年死亡の予測になると一番高いSTSでも0.709まで低下する。

1年後の死亡予測なんて、相当難しいからそりゃそうだよな、、という感想。しかも心臓外科の1年後の死亡予測目的で作成したわけではないので尚更。

 

また、今回は識別能のみ評価しており、較正能(リスク発生確率の推定)については評価していない。

予測モデルにおいては、識別能だけでは予測性能をきちんと評価できないので、較正能もセットで評価するのがベスト。(上述の参考リンク2個が詳しい)

limitaionでも言及されていないので、物足りなさがある。もしかしたら、較正能はかなり成績悪くて、提示していないだけなのかも?既知のデータで絶対出せるはずだから、悪い成績であっても出してほしかったな。。Publication biasみを感じる。