備忘録 as vet.

日々のアイデア、疑問など備忘録的に書きます。Scienceが好きです。

<論文感想>冠動脈バイパス再建術実施患者における術後出血/心タンポナーデの再探索の死亡リスク因子を探索したcase-control study

冠動脈バイパス再建術実施患者における術後出血/心タンポナーデの再探索の死亡リスク因子を傾向スコアマッチング(PSM)を利用して探索したcase-control study

 

Luan, T. et al. The death risk factors of patients undergoing re-exploration for bleeding or tamponade after isolated off-pump coronary artery bypass grafting: a case–control study. BMC Cardiovasc. Disord. 21, 204 (2021).

doi.org

 

<intro>

冠動脈バイパス再建術(CABG)はon-pump(ONCABG)とoff-pump(OPCABG)がある

ONCABGに比べてOPCABGのほうが様々な併発症リスクを減らすことができ、DM患者など特定の背景疾患を有する患者ではOPCABGの方が有益性があることが示されている

他方、心臓外科後の術後出血や心タンポナーデは致死的な進行を起こしかねない事象であるため、術後出血などが疑わしい場合は、再探索のための手術が行われる事が多い

しかし、再探索は、心臓外科において非常に悪い併発症の一つである

OPCABGを実施した患者のうち再探索が必要となる頻度は9-26%であり、再探索を行った患者の死亡率は27.6%であった

OPCABGを実施し、再探索が必要であった患者における死亡リスク因子を評価した研究はない

 

本研究では、OPCABG→再探索後の患者における死亡リスク因子を明らかにする

 

<method>

OPCABGを実施し、かつ出血or心タンポナーデによる再探索を実施した患者n=58を抽出

→死亡、生存の二群に分け、PS matchingで1:1に割付けて各群n=15ずつ抽出

出血or心タンポナーデによる再探索のクライテリア:

1)ドレーンから>200ml/h for 3hの排液

2)急性大量の出血

3)エコー上での心タンポナーデ確認

4)血液循環不全

 

PSmatchingに使用された術前説明変数:

性別、年齢、BMI、高血圧、DM、頚動脈硬化、大脳梗塞、Heart insufficiency、Respiratory insufficiency、Hepatic insufficiency、Renal insufficiency、MI発症から手術までの時間、cTnT、PCO2、PO2、術前乳酸値

 

*各臓器機能低下の定義(かなりゆるいものもあるので要注意):

心機能低下→LVEF<50%;

呼吸機能低下→PO2<83mmHg;

肝機能低下→ALT>50 U/L;

腎機能低下→Cre >132uM

 

 

アウトカムモデルではなく、曝露モデルであるPSを用いたPSMによるリスク因子解析

preopeのconditionを調整しているので、再探索後のpostope conditionがアウトカムに及ぼす影響を評価している

つまり、見たいリスク因子は、明示的に書かれていないが、再探索後のpost-operative variablesのリスク因子、ということ?

 

 

<Results>

再探索前後での乳酸値、cTnT, 再探索後のCre, 再手術時間、intra-aortic ballon pump (IABP), continuous renal replacement therapy (CRRT)、血小板輸血 が死亡に関連したリスク因子として見出された

 

<疑問>

今回実施しているPSは目的変数に再探索を設定し、説明変数を術前因子とした多変量ロジステック回帰を行っているということであっている?

今回の場合、再探索を実施した患者のみを集めており、再探索を行わなかった患者というものは存在しないので、再探索を受ける治療確率(=PS)は算出できないのではないだろうか?

とすると、結局何を目的変数としてPSを作成したのだろうか?

生死を目的変数としたらそれはPSではなくただのアウトカムモデルの多変量解析になるのではないか??

再探索以外に目的変数になりえるものってある、、?

 

うーん、難しい。Research Gateの論文コメント欄に質問を投げかけてみたが、返答はくるだろうか。。

 

ちなみにPSMについては以下の某有名ブログがとっても参考になった

www.krsk-phs.com

 

2023/9/27追記

色々考えたり、人に聞いたりしてなんとなく腑に落ちてきた気がする。

 

おそらく、今回のPSは、生死を目的変数としたアウトカムモデルのようなモデル設計なのかも。
PSMで術前因子が生死に及ぼす影響を排除して、生存死亡の二群間で術前因子の背景を揃えた形にしているのかもしれない。
その上で、再探索前後の因子からリスク解析を行っているのだろう。
PSは曝露モデルしかありえないとおもっていたが、原理的にはアウトカムモデルでも作成はできる。マッチングをしているという点で、普通の多変量解析とは異なる点である。

僕の想像でDAGを書いてみるとこんな感じ。

調整前DAG↓

再探索前/後コンディションと生死の経路が見たい因果経路(緑色)とすると、

術前コンディションが生死に関連しているため、backdoor path(赤紫色)が生じてしまっている。

ちなみに、OPCABG(冠動脈バイパス再建術)や再探索が白くなっているのは、調整済みを意味している。今回はOPCABG実施した上で再探索した患者のみセレクトしているから、調整済みと同じ扱いになる(はず)。

 

もしPSマッチングにより、生死の二群間で術前コンディションの背景因子が揃っている場合、術前コンディション→生死の経路が消失することを意味するから、

調整後DAGは以下のようになる↓

見事にBackdoor pathが消えて、目的の因果経路のみが出てきた。

 

多変量解析でリスク因子を解析をしていない理由として考えられるのは、
1)マッチングにより各群15例に絞られたため、多変量解析はそぐわないと考えて単変量解析を行っているの可能性。
2)DAGからみるに、再探索前・後の因子はすべて有向経路なので、調整が不要とみなしている可能性。

 

再探索前後の因子についてもPSを設定してアウトカムモデルで解析したらある程度妥当性が高まったかもしれないが、今回それを実行していないことを考えると、やはりDAG通りの仮定で解析を行っているのかもしれない。

 

面白い。