備忘録 as vet.

日々のアイデア、疑問など備忘録的に書きます。Scienceが好きです。

<論文感想>人の心臓外科手術後の低拍出症候群の予後とリスク因子を評価したRCT post-hoc解析

人の心臓外科手術後に発生する重篤な併発症の一つ低拍出症候群(LCOS)の予後とリスク因子を評価した論文

Kochar, A. et al. Predictors and associated clinical outcomes of low cardiac output syndrome following cardiac surgery: insights from the LEVO-CTS trial. Eur. Hear. J. Acute Cardiovasc. Care 11, 818–825 (2022).

https://doi.org/10.1093/ehjacc/zuac114

 

心臓外科手術後かつEF低下患者におけるレボシメンダンの有効性と安全性を評価したRCTのpost-hoc analysis 

 

  • LCOSに関連した術前リスク因子の分析 (Table3)
    →多変量解析;共変量は単変量→stepwiseで機械的に選択
  • LCOSの有無と90日までの全死亡の関連を評価 (Fig1)
    →KM曲線+log-rank検定(Crude)
  • LCOSの有無が90日までの全死亡に及ぼす影響を交絡因子調整してHR算出 (Fig2)
    →Cox回帰(Adjusted);共変量は事前に選択した因子を使用
  • LCOSの有無と様々なclinical outcomeの関連を評価 (Table4)
    →2群比較(Wicoxsonやχ2検定) 

 

LCOSのリスク因子解析→打ち切り含まないので多変量解析で実施;

LCOSの臨床アウトカム解析→打ち切りデータを含むのでCox回帰で解析

 

と使い分けているところが自分の研究の参考になった。

 

一方で、共変量の選択基準の使い分けが謎。

Cox回帰では(おそらく)医学的知見に基づいて共変量を選択し、調整しているにも関わらず、多変量解析では利用できるすべてのbaseline変数を単変量解析して、stepwiseで機械的に共変量を選択していた。

 

一般的に共変量選択の方法は様々あるが、何を選ぶべきか悩ましい。

因果推論の文脈であればDAGを書いたりドメイン知識ベースに選ぶのがいいだろうが、
予測モデルであれば精度が高い結果になるならあまりドメイン知識ベースは不要で、統計学的な関連性だけで機械的に選ぶのも一案なのかと思ったり。

本論文では、多変量解析はリスク因子の探索という目的だと思われるが、その場合は機械的に実施でも良いのだろうか?そもそも、リスク因子探索って、結構曖昧な概念だが、リスク因子の延長線で結局興味があるのは因果関係なわけだから、因果推論ベースで解析を行うべきなのではないだろうか?

もしリスク因子の探索=因果推論の文脈であれば、因果を明らかにしたいX→Yの経路において、調整すべき交絡要因を仮定してそれらを共変量として組み込むべきなので、興味のある因果の種類によって調整する因子も都度変わってくるはず。すなわち、個々のX→Yごとに組み込む共変量も変化するはず。

そういう意味では、広く行われているリスク因子探索のための多変量解析(色々な因子を多変量に組み込んでたくさんのリスク因子をあぶり出す)のコンセプトは破綻している気がするなあ。。興味のある任意のX→Yの因果経路が仮定にないわけだから、何の解析をしているのか意味わからんことになる。

そこで得られた結果は、あくまで統計学的な関連性の高さだけであり、それって結局因果推論になんら寄与をもたらさないけど、なんのために行ったの?ってことになる。

ここからは、いわゆるTable 2 fallacyという問題にいきつく。

Table 2 fallacyについては、後藤先生のnoteがとてもわかり易い

note.com

因果推論を学んで解像度が高くなるほど、医学研究で広く行われている解析の目的が不明瞭なことに気づく。面白いなあ