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<論文感想>弁置換術の予後予測モデルが実際に臨床現場の意思決定にどれほど影響したか?

弁置換術の予後予測モデルが実際に臨床現場の意思決定にどれほど影響したかを評価した論文

https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/01.CIR.0000125853.51637.C8

Gorp, M. J. van, Steyerberg, E. W. & Graaf, Y. van der. Decision Guidelines for Prophylactic Replacement of Björk-Shiley Convexo-Concave Heart Valves. Circulation 109, 2092–2096 (2004).

1979年にドイツで発売された心臓外科用の人工弁(BScc)が移植後に破損する事例が複数報告された。そこでBSccを移植されている心疾患患者において、BSccが将来的に破損して生命の危機に至るリスクと、新しい弁に交換する弁置換術を実施するリスク、ベネフィットのどちらを取るべきか、という臨床上の大きな課題が生じた。
それらのリスクの定量的な予後予測モデルが開発され 、弁置換術の意思決定ガイドラインとして採用された。

 

この論文では、採用された予後予測モデルが実臨床の意思決定をどれくらい変えたかを評価している

弁置換術を実施した場合に、予測モデルによって余命が延長すると推測される患者について、実際に弁置換術を受けた割合を比較することで、予測モデルがどれくらい臨床に意思決定と一致しているか(臨床の意思決定に影響を及ぼしているか)を評価している。
結果としては、余命延長が予測される患者群では実際に弁置換術を受ける確率が高かった(HR: 6.6, 95%CI 4.4-10)

この結果を持って、予後予測モデルは実際の臨床上の意思決定に影響を及ぼしたと結論づけているが、この評価の仕方には疑問がある。

今回評価に使用したBScc患者は、1992年時点で生存しており、まだ弁置換術を受けていない患者である。この理由として、論文では、1992年が最初のBScc予後予測に関する論文が出版された年だから(つまり弁置換術の実施の意思決定が予後予測モデルを参考にして成されたと仮定している)としている。

しかし、この患者群だけを用いても、予後予測モデルによって意思決定が変化したかどうかは判断がつかないはずである。(∵予測モデル→意思決定 の因果が示せない)

もし予後予測モデルの影響を評価したい場合、予後予測論文が出版される以前に弁置換術を受けた患者と、出版後に弁置換術を受けた患者において、期待される余命延長効果と、実際に弁置換術を受けた患者の関連性を比較する必要があるのではないだろうか。
例)出版前では余命延長が期待されているのに弁置換術を受けていない患者割合と、出版後に余命延長が期待されるのに弁置換術を受けていない患者割合を比較することで、どれほど予後予測モデルが意思決定に影響したかを評価することができる、と考える。


Circulationに載った論文であるが、結論の導き方や評価の仕方は論理が不足している感があり、ちょっと残念。
そもそも、CQは”予後予測モデルが意思決定に影響したか?”という部分に着目しているが、
”予後予測モデルによって予後が改善したか?”が本当に知りたい部分であり、そちらを評価するようなデザインを組むべきではないだろうか。
予後予測モデルが絶対的に予後を良い方向に変えるという尤もらしさがあるなら、”予後予測モデルが意思決定に影響したか”という問いだけを評価するのでもいいと思うが。。

予後予測モデル論文では内的妥当性、外的妥当性を評価するはずなので、そちらで予後が改善したか?の問いを代替しているのだろうか。

 

この分野はまだまだ勉強が甘いので、何か論文の解釈や読み方に決定的な誤りがあるのかもしれない。
この論文で出てくる予後予測モデル自体(doi: 10.1016/s0895-4356(03)00172-0 )の妥当性をもう少し深掘りする必要がありそう。