健常犬におけるピモベンダンの薬力学的・病理学的変化を鏡像異性体ごとに評価
Schneider, P. et al. Comparative cardiac toxicity of the IV administered benzimidazole pyridazinon derivative Pimobendan and its enantiomers in female Beagle dogs. Exp. Toxicol. Pathol. 49, 217–224 (1997).
http://doi: 10.1016/s0940-2993(97)80013-9
Pimobendanはその化学構造から、鏡像異性体のペア(Distomer、Eutomer)が存在する
その生理活性はEutomer > Distomer という関係になっており、pimobendanの場合は約三倍異なる。
また、distomerとeutomerが1:1で混ざったものをRacemate と呼び、通常のpimobendanはRacemateの状態で存在する。
Pimobendanによりjet lesionと呼ばれる心臓内腔の器質的変化が生じることがわかっているが、この成因がなにか、pimoの化学構造による違いはあるのかを評価した
健常ビーグル(♀、8-18ヶ月齢、8.9-13.3kg)を用いてて、各群n=3で実験。群の詳細は以下。
control群、pimo群(さらにracemate, eutomer, distomer群)に分け、pimo群はそれぞれDoseを 0.25, 0.75, 2.25 mg/kg (distomerだけ力価が1/3倍なので0.75, 2.25, 6.75 mg/kg)でSID4週間IV実施。
経時的にBP,ECG,BTなどを行い、4週間目に剖検して詳細な病理検査を実施
結果
他のPK論文と同様に、どのconditionのpimoも急速に代謝、排泄されていくので、同じようなPK曲線を取る。ギャップなし。
病理結果は興味深い。
racemate, eutomer群ではDose依存性に僧帽弁組織の重みが増大。
病理検査では、僧帽弁に結節状の変性が認められ、グリコサミノグリカンと繊維成分で構成されていると記載有り。これはまさに粘液腫様変性ということ?
他にもjet lesionと呼ばれる逆流や血流に関連した心臓内腔の病変が認められている。
controlと比較してpimo群でその病変は多く認められているが、controlにも3頭中2頭は病変が認められている
著者は考察でpimo特有の薬効による器質的変化ではなく、強心作用に起因した変化ではないかと論じている。事実、他の強心薬でも同様のjet lesionは認められていることから、これは頷ける。
一方で、pimoでどれくらいこの変化が促進されるのか?というと、この論文だけではなんとも言えなそう。
というのも今回トータルで30頭くらいの実験犬を扱っているが、controlに割り当てられているのはたった3頭だけ。ほかはすべてpimo群になっている。
比率でいうとcontrol:pimo=1:9なので、negative controlとしての検出力が弱すぎて、なにもしなくても一定の確率で生じ得る器質的変化なのか、pimo(強心作用)により上昇したのか、なんとも言い難いかなという気もする。
統計学的な検定や解析を実施していないのは好感が持てる。
おそらく著者らも質的研究を重視して、統計学的に論じるのに適さないデザインだとは承知しているのだと思う。
あくまでもpimo群の数を最大限増やして、pimo群の中で質的に病態がどう異なるか、病理の知見を最大限取得することが目的だったのかもしれない。
今だからこそ、獣医学ではpimoの偉大さ、安全性、有用性は誰しもが十分に認識しているが、開発当初はその副作用や毒性が未知数だったんだなという歴史的変遷を感じる。