備忘録 as vet.

日々のアイデア、疑問など備忘録的に書きます。Scienceが好きです。

<論文感想>急性CHFの犬における利尿薬投与後の尿中Na濃度と治療効果の関連性を評価したretrospective study

急性CHFの犬におけるフロセミドIV後のurine Na濃度と治療効果(酸素投与時間)の関連性を評価したretrospective study

Convey, V. et al. Urine sodium concentration after intravenous furosemide in dogs with acute congestive heart failure and correlation with treatment efficacy. J. Vet. Intern. Med. (2023) doi:10.1111/jvim.16955.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16955

 

<intro>

  • 利尿薬反応性は、 ヒトの急性うっ血性心不全(CHF)の強い予後因子である
  • 犬での利尿薬反応性の評価は、臨床症状の改善や胸部レントゲンの改善など、主観的・半定量
  • 利尿自体の定量的評価として、尿量、体重の減少などがあるが、これらはうっ血の改善に必要なNa利尿を定量しているわけではない
  • ヒトの急性CHFでは、尿中Na(uNa)の一点測定が利尿薬反応性の定量評価として用いられており、low uNaは利尿薬抵抗性の負の予後因子である
  • CHF犬におけるuNaの臨床的意義は不明
  • 本研究の目的: 
    1. フロセミドIV後のCHF犬におけるuNaと治療歴、他の血液生化学検査との関連性を評価
    2. uNaとうっ血改善率(高濃度酸素投与の離脱成功; DCSO2)の関連性を評価
  • 仮説:
    CHF犬において、フロセミドIV後のuNaは入院期間中のDCSO2、酸素投与期間(timeO2)と関連する

 

 

<Methods>

  • 対象:
    ペンシルバニア大学動物病院救急科に来院した急性CHF犬
    • 組入基準は、フロセミドIV後30-540min以内にuNaが計測されていることなど。
    • 除外基準は、フロセミドCRI、入院期間中の診断変更、酸素投与不使用
  • アウトカム:
    酸素療法離脱期間(DCSO2)
  • デザイン:
    単施設Retrospective study

<Results>

  • 多変量解析を用いたuNaと関連する背景因子の探索では:
    • serum Cl(正の相関)
    • PCV(負の相関)
    • 利尿薬の自宅処方有り(負の相関)

          ※Backwards stepwise →AICで変数選択

  • uNaと酸素離脱との関連性は:
    • uNa ≧87mM群は <87mM群に比べてDCSO2のHRが高く、酸素投与から離脱しやすい
    • uNa ≧87mM群は酸素離脱の累積割合が<87mM群より多く、死亡の累積割合は少ない
  • ちなみに...uNaの代わりに体重減少度合いと酸素離脱の関連性を評価してみたところ:
    ≧3.3%の体重減少と<3.3%の体重減少で分けてもDCSO2のHRは有意差なし
    (≧3.3%体重減少軍のほうがDCSO2しやすい傾向はある)

<Discussion>

  • CHFの改善には体重の減少だけでなく、uNaが重要
  • Na排泄を伴わない利尿(=低張性利尿?)の場合、体液量が減少しても間質から再度体液分布が生じるので、単に体重減少(=体液量の減少)がうっ血性肺水腫の病態の改善には繋がるわけではない
  • むしろ低張性利尿による細胞内脱水は腎機能の悪化リスク増加や症状改善の遅延などを引き起こす
  • 適切な利尿 (等張性or高張性?) が達成されるとき、体重の変化とuNaが強く相関すると考えられる
  • 観察研究のため、フロセミドの投与タイミングを制御できず、入院前にフロセミドIVが実施されているケースも存在する
    →異質性の増加になり、null 方向へのバイアス*1になるが、入院期間の定義を複数持たせて感度分析を行うことで、結果のロバストさを確認している

 

<感想>

最近読んだ論文で一番面白かった

研究の着眼点やテーマの面白さもさることながら、intro, discussionを通して利尿、体液バランスの勉強としてめちゃためになった。
単純に尿が出れば良い、というわけではなくNa性利尿がうっ血改善には大事、ということは(もしかしたら基本的なことなのかもしれないが...)目からウロコだった。


研究デザインがかなり凝っており、丁寧な記述なのも好印象。

特に、入院期間の定義を独自に設定しているが、その合理性を丁寧に記述し、感度分析も行っている以下の記述は自分の研究の参考になる。

In our study, we chose not to use the definition used in studies of humans because it could be influenced by variables related to our hospital workflow, such as time spent in waiting or examination rooms or other factors not related to treatment efficacy, such as when the owner could most conveniently pick up the dog from the hospital. In our study, we defined duration of hospitalization as timeO2, which represents the time from the start of supplemental O2 therapy to the time of DCSO2...

 

uNaが非侵襲的な検査であるのもgood。

しかも、測定タイミングがある程度幅広でも結果の一貫性は保たれており、使い勝手良さそうな印象。

実際、本研究ではフロセミドIV後のuNa測定タイミングはかなりバラけているが、結果のロバスト性は保たれていたし、先行研究でも同様な知見が得られている。


ただし、肝心のuNaの測定方法は未記載で、どうやって測定したのか知りたいところ。

ドライケムとかで普通に測れるもの?それなら明日にでも試してみたい。


 

 

*1:本当に?非差異的誤分類とかそういう話に関連するのかと思うが、個人的にはこの投与タイミングのズレはアウトカムや重症度合いと関連していそうなので、差異的な可能性を否定できない気がする