臨床疫学におけるTarget trial frameworkの原則と研究応用に関するcommentary論文
Matthews, A. A., Young, J. C. & Kurth, T. The target trial framework in clinical epidemiology: principles and applications. J. Clin. Epidemiology (2023) doi:10.1016/j.jclinepi.2023.10.008.
https://www.jclinepi.com/article/S0895-4356(16)30136-6/fulltext
観察データから因果推論する目的で、観察研究を仮説実証型のRCTを模して捉え直すというアプローチをTarget trial frameworkという
RCTでは、明確で明示的なresearch question (RQ)が存在することが必要であり、観察研究のRQでも同様。そのために、RCTのプロトコルと同様の枠組みで観察研究を捉え直す必要がある:
- 適格基準、治療計画、治療方法、アウトカム、follow-up、比較対象、解析手法などを明確にする
- 利用可能な観察データでは上述のtarget trial frameworkのデザインに組み込めない(データ不足)場合、target trial frameworkのデザインを利用可能データが適合するまで考え直す必要がある
- ブラッシュアップしたデザインが当初のRQに答えられない場合、手持ちの観察データではTarget trial frameworkでRQに答えられないので、別のデータソースを漁る必要がある
<target trial frameworkの利点>
RQの明確化だけでなく、観察研究における落とし穴(バイアスなど)の回避につながる
以下に、回避できる落とし穴について概説する
[1: 明確な治療計画の定義]
- RCTのレポーティングガイドラインでは、興味のある治療計画(用量、期間、投薬中の条件など)について事前に厳格に設定することを求めているが、観察研究のレポーティングガイドラインでは、曝露に関して、RCTのレポーティングガイドラインと同レベルの厳格な設定に関する推奨がなされていない
- この結果、実際の観察研究では曝露の異質性が高く、結果の解釈が困難になっていることがある
- Target trial frameworkに則り、興味のある治療計画を明確に定義することで、興味のあるRQを解くために必要なシャープなエビデンスの創出につながる
- 例として、乳がん患者における2種類のホルモン治療の効果比較を考える
アロマターゼ阻害薬2.5mg/dayを5年間 or 副作用(骨粗鬆症、変形性関節症)の発現までの期間、内服を継続 v.s.
タモキシフェン20mg/dayを5年間 or 副作用(子宮内膜増殖症、血栓症)の発現までの期間、内服を継続
を観察データから比較することで、治療を完全に遵守した集団における2群間での平均的な治療効果(per-protocol effect)を推定することができる
[2: time zero(T0)の特定]
- RCTでは、適格基準を満たした時点、アウトカムの観察を開始する時点と治療の割付時点が一致して、これをT0とするが、観察研究では治療の割付時点がほか2つの時点と一致するとは限らない
→このT0の不一致はimmortal time biasやprevalent user biasをもたらす - target trial frameworkを用いることで、T0の誤りを構造的に直すことはできないが、時系列的な視点を取り入れることでT0のself-inflicted misspecification (immortal time biasやprevalent user biasのこと?)のリスクを減らすことができる
- RCTでは、研究者は(当たり前だが)将来の結果を元に組入患者の適格基準を恣意的にいじったり、跡から割付を変更することはできない
- 観察研究では、研究開始時点で集団の選択、割付、結果まですべてを一挙に知ることができるので、時系列に沿わない操作が可能になってしまっている
- 当然、結果を見て恣意的に割付などを替えることは許されないので、観察研究においてもRCT同様の時系列に沿った意思決定を行うべきである
- 一方で、観察データの場合、上述した時系列的な意思決定を行ったとしてもT0を適切に扱えない場合がある
- 例1:
適格基準に複数時点で該当する場合
→対処法として、異なるT0を設定して、multiple nested target trialを行うことでtarget trial emulationが可能 - 例2:
一つ以上の治療を行っており、複数の治療群に当てはまる場合
→打ち切りや複製、重み付けで対処することが可能
- 例1:
<適用>
target trial frameworkを使用した研究論文は2010で1本、2021で50本になった(→意外と少ない!これは、target trial frameworkに適用できる観察データが多くないということかも?)
詳細は割愛するが、CIVID19のmRNAワクチン効果など、観察研究でも適切で明確にcausal questionを問うことができ、自己起因のバイアスを回避することができた例がある。
<まとめ>
- Target trila frameworkを用いることで、観察研究デザインでありがちな集団の曝露の異質性などに起因した結果の解釈の困難さに対して、臨床的な解釈可能性を高めることができ、immortal time biasやprevalent user biasなどのバイアスの回避につながる
- 観察データからtarget trial emulatonを可能にするための明示化を行うことで、研究デザインに関連した基準に対する専門家同士の議論の基盤となる(このセンテンスは言いたいことがよくわからん)
- RCTと観察研究の橋渡しとなることで、興味のあるQuestionに対する(観察研究、RCT含め)すべての研究のデザインの質を比較して評価する事が可能になる