備忘録 as vet.

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<論文感想>CHF既往歴のあるHCM/HOCM猫におけるピモベンダンの効果を評価したRCT

CHF既往歴のあるHCM/HOCM猫におけるピモベンダンの効果を評価したRCT

Schober, K. E. et al. Effects of pimobendan in cats with hypertrophic cardiomyopathy and recent congestive heart failure: Results of a prospective, double-blind, randomized, nonpivotal, exploratory field study. J. Vet. Intern. Med. 35, 789–800 (2021).

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16054

 

直近60日以内にCHFを経験したHCM猫に対してpimobendan投与することが、その後180日間における病状の悪化(=フロセミド増量が必要になる)を抑制したかどうか評価したRCT

ベトメディン(ベーリンガー)が最終著者に入っている臨床研究。

  • P: 60日以内にHCM起因CHFを発症した猫
  • I: pimobendan(Vetmedin flavour tablets, 0.3mg/kg BID)
  • C:Placebo  *フロセミドとクロピドグレルは併用許容
  • O:
    • primary
      • フロセミド増量or研究離脱
    • secondary
      • 研究離脱,心臓関連死亡,フロセミドの初回増量,フロセミド>10mg/kg/dへの増量,CHFによる入院,フロセミド,クロピドグレル以外の加療必要,ATE発症,LCOTOの増悪...までの時間
  • S: 多施設RCT

*exploratory study exploratory(non-pivotal)のためサンプルサイズ計算はせず、40例/groupを暫定的に設定した

*inclusion criteria: BW >=2kg, age >=12mo, BT項目の一部が基準範囲内であることなど

*動的LVOTOの定義: 収縮期最大圧較差が>=30mmHgであること

 

<results>

  • 患者背景(年齢、性別、BW、診断からの時間)は2群で均等
  • RR, LVIDs,E/Aはやや偏りが有りそう
  • pimo/placebo内服後の圧較差の変化はHCM/HOCMどちらも二群間で差なし。 ただし、HCMでは変化率はほぼ0だが、HOCMではやや増加
  • HOCMgroupにおいて、180日までの経時的変化では、圧較差は二群ともに減少の兆し。ただし、180日目までendpointに到達しなかった症例のみ解析している
  • ORはBaseline時点での各種治療(有無?)、 LVOTO、性別、年齢、BW、拡張機能、フロセミド用量で調整をかけた調整済みORとして算出。
  • 180日時点でエンドポイント未到達のORは両群ともに有意差なし。点推定値は0.855とややpimoでエンドポイントに到達しやすい(=悪化しやすい)という結果だが、95%CIはほぼ均等に1からのびているので、効果に関しては結論がつかない。
    一方で、LVOTOの有り無しで分けて解析した場合、LVOTO有りgroupでは点推定値が0.267と更に下降しpimo群で悪化の傾向があった。LVOTO無し群では点推定値が2.118と上昇し、pimo群で有利な結果となった。(Table3, Fig4)
  • このサブグループ解析と同様の傾向は、Time to eventのCox回帰(HR)でも認められ(Fig.5,6)、全体で見ると二群間に差はないが、LVOTOの有り無しで見ると二群間で真逆の結論が導かれる。
  • すなわち、HOCMの猫にpimoを投与すると、病態が悪化する時間が早くなる(フロセミド増量の時間が早くなる)一方で、Non-LVOTOのHCM猫にpimoを投与すると病態の悪化までの時間が延長する、という結果である。
  • Fig.7では心臓関連死亡or心臓関連安楽死orフロセミド10mg/kg/day以上の増量に到達した時間の複合エンドポイントでの生存解析を行っており、 全体では二群間に差は無しLVOTOの有り無しについては解析しているようだがグラフの明示なし。本文中の言及を見ると、LVOTOの有り無しのサブグループでの二群間のp-valueのみ記載があり、ともにp=0.48, p=0.5と有意差なし、となっている。

 

<感想>

ここまでの結果を見ると、pimoはNon-LVOTOのHCM猫には有用かもしれないが、HOCM猫にはむしろ予後を悪くする可能性があるのであまり使いたくないな、という印象。

今回最終著者にベーリンガーの社員が入っていることを念頭に置かなければならない。

研究デザインに関しては、論文中の記述も含めて質が高くて誠実だなと思ったが、 結果と考察に関しては、ベーリンガーの恣意性が入って完全に中立な言及にはなっていない印象。

具体的には、本文ではnon-LVOTOの有用性は考察しているものの、

  1. HOCMにおけるデメリットの可能性は言及していない点;
  2. Fig7で複合エンドポイントに関する生存解析ではsubgroup解析をしているにも関わらず、Fig.5,6のようなサブグループごとの生存曲線の明示はなされておらず、p値のみの報告にとどまっているので著しく情報量が少なくなっている点。

ハードアウトカムの死亡に関する生存解析はとても重要なので、サブグループ解析でももっと情報が欲しかった。

本文での論文全体の結論としては、

In conclusions, addition of pimobendan to furosemide with and without clopidogrel in the treatment of cats with HCM and recent CHF had no effect on 180-day outcome in our study. However, the study suggests that cats with nonobstructive HCM and recent CHF might benefit from pimobendan whereas cats with LVOTO might not. Overall, concerns that the use of pimobendan in cats with HCM with or without LVOTO potentially might worsen outcome seem unfounded. Considering the heterogeneity of cardiomyopathy in cats, it is possible that some, but not all, subpopulations of cats with HCM might benefit from treatment with pimobendan. Given the general lack of approved treatments for cats with HCM, identification of these subgroups and a more tailored approach to treatment are needed.

とあり、言い回しをかなりこねくり回して、結果に対する嘘はつかないけど、ベトメディンの印象をどうにか悪くさせないぞ、というベーリンガーの気概を感じる。笑