急性うっ血性心不全の犬猫における入院時電解質濃度と退院時/死亡前の利尿薬用量、予後の関連を評価したretrospective study
Roche-Catholy, M. et al. Clinical relevance of serum electrolytes in dogs and cats with acute heart failure: A retrospective study. J. Vet. Intern. Med. 35, 1652–1662 (2021).
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16187
急性心不全の犬において、入院時の低Cl血症は退院時or死亡前の利尿薬用量と強く相関し、低Clは重症度のマーカーとなりえるかも、という論文
<intro>
- うっ血性心不全患者ではRAAS活性化, バソプレシン機構活性化、利尿薬使用による電解質異常が生じる
- 低Naが心不全患者における強い負の予後因子であることはわかっている
- 近年、Cl濃度はNaよりもさらに密接に心不全の予後に関わっているという事がわかってきた
- ClはNaと連動して濃度が変化する単なるpassive anionではなく、心不全の病態生理に重要な役割を担っていると考えられている
- ClがCHF犬の重症度(特にstageD)との区分けに重要な因子であることが明らかになり、利尿薬抵抗性と低Clの関連性が示唆される
- しかしながら、急性うっ血性心不全の犬猫におけるClと重症度の関連性を評価した研究は不足している
- 本研究の目的は、急性うっ血性心不全の犬猫における
1)来院時の電解質異常
2)電解質と利尿薬用量の関連
3)電解質と生存期間、入院期間との関連 を評価すること
<results>
- 急性CHFの犬において、入院時のCl濃度は退院時or死亡前の利尿薬Doseと負の相関
- その傾向は、入院時まで利尿薬を使用していないsubgroupでも同様に認められた
- 特に犬では、Na,Kと比べてClは強い負の相関性があった
- 猫ではCl濃度と利尿薬Doseに相関性は認められなかった
- Na,K,Clは心臓関連死亡と関連しなかった
<感想>
研究アイデアが面白い。影が薄くなりがちなClの重要性に注目した論文。
Na,Kは色々な病態で動くし着目することが多いけど、Clはおざなりになりがち。
実際、introで言及があるようにClはNaと共同で動く受動的な陰イオンっていうイメージが強かったので、ぶっちゃけ臨床的意義をそんなに理解していなかった(不勉強)
今回はそんなClが実は心不全の将来的な重症度(=利尿薬用量)と関連があるのではないか、という研究。
解析方法はシンプルで、入院時のClと退院時(あるいは死亡前)のフロセミド用量との関連をノンパラメトリックに相関係数を算出するというもの。
ノンパラ(順位相関係数)にした理由は言及ないが、外れ値の影響を受けすぎないような解析手法にしたかったから?
今回は単純な単回帰モデルで関連性を評価して議論するやり方だけども、ふと多変量回帰にしなかったのはなぜだろう、と思った。そもそも今回の研究では入院時Cl→利尿薬用量の因果関係を明らかにしたいわけではなく、単純にClが将来の利尿薬用量を統計学的に説明可能か?(言い換えると、Clで将来の利尿薬使用を予測可能か?)というところに興味があるからなのかもしれない。
まだ単変量・多変量解析の深淵を理解できていないので、薄い考察になってしまうが、あるアウトカムの予測そのものだけに興味がある場合、Clがどれだけアウトカムを説明できるか?(予測できるか?)は単変量解析で十分に目的を果たしている。さらに予測精度をあげるためには、他の様々な変数を組み込んで説明可能性を高めていく必要があるが、今回はそもそも予測精度にはこだわっていない(それ故に予測性能の評価を行っていない)。あくまでも電解質が、将来の利尿薬使用をどれくらい説明できるのか?を解いている形になるので、単変量で十分ということなのだろう。
今回の結果を仮説として、Clと重症度の因果推論を行ってもいいし、精確な予測のための予測因子として組み込んでも良いかもしれない。そういう足掛かり的な研究として意義深いのだと思う。