心臓外科における輸血の予測モデルは臨床的に有用かどうか議論したEditorial論文
Bartoszko, J. & Karkouti, K. Can predicting transfusion in cardiac surgery help patients? Br. J. Anaesth. 119, 350–352 (2017).
https://doi.org/10.1093/bja/aex216
心臓手術では20-60%の患者が周術期に輸血を受けており、輸血は患者アウトカムに悪影響を及ぼすと考えられている。
輸血リスクの指標は、臨床試験での高リスク患者の選択や、メタ解析などでの患者集団のリスク特性の理解に有用である。
術前の正確なリスク層別化は、積極的な術前貧血管理や術中止血管理などの適切な対応につながる可能性がある。
過去10年に多くの輸血リスクスコアが提案されているが、広く臨床現場で使われるには至っていない。
ACTA-PORTは、心臓麻酔学会ACTAの協力で大規模多施設データから開発されたという強みがあるが、施設間の輸血方針の違いなどの課題もある。
既存のスコアを比較検討し、臨床での実用性を高める工夫や、スコア使用が実際に臨床行動や患者アウトカムの改善につながるかを検証する必要がある。
麻酔科領域では優れた臨床リスクスコアが多数あるが、それをどのように有効活用するかが今後の課題である。
輸血必要性の予測モデルを構築したところで、結局、臨床現場を変えることはできるのだろうか?という疑問は確かにある。
輸血が必要な患者だから輸血をするわけだし、輸血が必要な患者を高い精度で予測できたところで、そもそも治療方針は大きく変わらないのではないだろうか?
臨床医が事前に予測できないような意外な患者を予測することができるのであれば、有用性は高いと思うが、本論文でも紹介されている予測モデルの予測変数は輸血の予測に寄与しそうな(つまり臨床知見に基づく)因子を集めてモデルを構築しているので、結局臨床医と予測モデルと同じ思考過程でハイリスク患者を同定するだろう。
とすると、臨床医から見て輸血のハイリスクと思われる患者には、予測モデルの結果に関わらず凝固系の精査をするだろうし、事前に出血リスクが低減できるような準備をするだろうし、治療方針は変わらないんじゃないだろうか。
メリットがあるとすれば、熟練度の低い臨床医において、予測モデルを補助として使うことで、ハイリスク患者の見逃しを防ぐことができるのかもしれない。
ただ、そのようなシチュエーションは、例えば状況次第で若手医師しかいないような救急外来などで活用はするだろうが、心臓外科のような予定手術の場合、多くのベテラン医師が多数介在する現場では、そのような予測モデルが活躍する隙はあまりないのではないだろうか。
使われない予測モデルが大量に生み出され、捨てられている現代において、AUCを1%でも高めようとモデル改良をする努力よりも、予測モデルが真に役立つclinical settingを考えるほうが全然重要なんだと思う。