備忘録 as vet.

日々のアイデア、疑問など備忘録的に書きます。Scienceが好きです。

<論文感想>遠隔転移を伴う下垂体癌の犬のcase report

下垂体癌が肝臓と脾臓に遠隔転移した犬の臨床経過、画像所見、病理所見を報告したcase report

NAKAICHI, M. et al. Clinical features and their course of pituitary carcinoma with distant metastasis in a dog. J. Vet. Méd. Sci. 82, 1671–1675 (2020).

www.jstage.jst.go.jp

自分が今執筆しているCase report論文の参考に読んだ論文。

 

ヒト医療では、遠隔転移を伴う下垂体腫瘍を下垂体癌と呼び、その発生率は下垂体腫瘍の中でも0.1-0.2%程度と非常に稀。

一方で、下垂体腫瘍は犬の脳腫瘍の中ではメジャーであるが、犬の下垂体癌に関する臨床的な報告はまだ無い。

今回の症例報告では、下垂体腫瘍と診断された11歳オスのトイプードルに対して、放射線治療を行い臨床症状のコントロールはできたものの、内因性ACTHの数値が依然高値を示したままコントロールされず、後に肝臓と脾臓に転移病変が見つかった一例について、臨床経過と画像所見、病理所見を合わせて報告している。

各種検査結果から臨床経過、剖検時の所見まで揃っているcase reportがあるのはかなりありがたい。

放射線治療で腫瘍性病変が組織学的に検出されなくなるまで下垂体腫瘍を叩けるんだというのが意外だった。化学療法で寛解維持している患者場合も、組織学的に検出できなくなるくらい腫瘍組織は縮小するのだろうか。

 

一般的にCase reportはあまり引用されず、Ressearch Articleに比べて地味な存在なのかもしれないが、経過が詳細に記述されていることも多いので、臨床医としては詳述がとても参考になるので、ありがたい。

被引用件数のみでみるとインパクトが少ないように評価されるが、Case reportは閲覧されることで実臨床にインパクトを与えているので、やはり引用件数だけの側面で一元的に論文の価値を決めるのは早計だなと思う。

Research articleのほうがCase reportより上、所詮Case reportなんで、みたいな主張はよく耳にするが、目的や方向性の異なる論文を比較して論じること自体、論文の意義を誤解しているよな、と思う。*1

*1:Evidenceの質、という文脈ならその主張はわかるが、異なるsettingもまとめて主張する言説が大いにあるのが気になる