備忘録 as vet.

日々のアイデア、疑問など備忘録的に書きます。Scienceが好きです。

<論文感想>心機能低下した患者におけるレボシメンダンの右室機能効果を評価したsystematic review & meta-analysis

心機能低下した患者におけるレボシメンダンの右室効果を評価したsystematic review & meta-analysis

Hu, Y., Wei, Z., Zhang, C., Lu, C. & Zeng, Z. The effect of levosimendan on right ventricular function in patients with heart dysfunction: a systematic review and meta-analysis. Sci. Rep. 11, 24097 (2021).

 

http://doi: 10.1038/s41598-021-03317-5

 

レボシメンダンと右心機能、肺血管パラメータの関連性について包括的に評価するため、SR/MAを実施。

<論文の適格基準>

-patient: NYHA III/IVの心不全患者70% or PH(mPAP >=25mmHg)

-intervention:

levosimendan...0.1-0.2ug/kg/min for 24h CRIされているヒト患者;  

control...placebo/dopamine/prostaglandinいずれかを投与された患者

-outcome... 肺動脈圧(PAP), 肺血管抵抗(PVR), 三尖弁輪収縮期変動(TAPSE)**, 三尖弁輪最大収縮期流速(S')**, 右室面積変化率(RVFAC)***

 

**TAPSE,S',RVFAC すべて右室の長軸方向の収縮機能を評価

***RVFAC 2次元の右心室の拡張末期面積と収縮期面積から右室の収縮能をみる方法(RVは三次元的に複雑でEF算出が難しいための代替案)


<結果>
8本の研究(390患者)が組み入れられた
-levosimendanにより右室収縮能(TAPSE,RVFAC,S')は一貫して改善の方向性
-肺動脈圧は収縮期, 平均ともにlevisimendanで低下
-PVR,心拍出量はlevosimendanが有効か否か結論づけられない結果

医学的/薬理学的に右室収縮能上昇はうなずける。

左室収縮能上昇に伴い肺動脈圧が低下するのもうなずけるが、右室収縮能上昇は肺動脈圧の上昇に寄与しそう。

トータルでは右室収縮能上昇による前負荷 << 左室収縮能上昇による後負荷減少という理解であっている?

<感想>

1)コクランのRoB2ではなく、なぜか古いjadad scaleで研究の質を評価している

論文は2021なので、RoBを知らないということはないと思うが、何故これを選んだのか明確な理由が必要になるはず。明示されていないが。

 

2)OISを算出するべきだったと思う。Discussionでもサンプルサイズについて言及し、検出力を理由にCOなどで差が出なかったことを考察しているが、それならOISを算出してRCTトータルでのサンプルサイズに関する統計学的検出力を評価すべきだったのではないかと思う。

 

3)Funnel plotで出版バイアスを含めたsmall study effectを評価するべきだったのではないか。2)同様にDiscussionのlimitaionで言及されてるが、そこまでするなら、Funnel plotで更に踏み込んだ議論をしてほしかったという感じ。出版バイアスがありそう、というのはだれでも言えるが、どれくらいのバイアスがあるか?結論に影響を及ぼすレベルのバイアスか?を考察することが疫学研究の醍醐味なのかなと思う。

 

<論文感想>健常犬におけるピモベンダンの薬力学的・病理学的変化を鏡像異性体ごとに評価

健常犬におけるピモベンダンの薬力学的・病理学的変化を鏡像異性体ごとに評価

Schneider, P. et al. Comparative cardiac toxicity of the IV administered benzimidazole pyridazinon derivative Pimobendan and its enantiomers in female Beagle dogs. Exp. Toxicol. Pathol. 49, 217–224 (1997).

http://doi: 10.1016/s0940-2993(97)80013-9

 

Pimobendanはその化学構造から、鏡像異性体のペア(Distomer、Eutomer)が存在する

その生理活性はEutomer > Distomer という関係になっており、pimobendanの場合は約三倍異なる。

また、distomerとeutomerが1:1で混ざったものをRacemate と呼び、通常のpimobendanはRacemateの状態で存在する。

Pimobendanによりjet lesionと呼ばれる心臓内腔の器質的変化が生じることがわかっているが、この成因がなにか、pimoの化学構造による違いはあるのかを評価した

 

健常ビーグル(♀、8-18ヶ月齢、8.9-13.3kg)を用いてて、各群n=3で実験。群の詳細は以下。

control群、pimo群(さらにracemate, eutomer, distomer群)に分け、pimo群はそれぞれDoseを 0.25, 0.75, 2.25 mg/kg (distomerだけ力価が1/3倍なので0.75, 2.25, 6.75 mg/kg)でSID4週間IV実施。
経時的にBP,ECG,BTなどを行い、4週間目に剖検して詳細な病理検査を実施

 

 

結果

他のPK論文と同様に、どのconditionのpimoも急速に代謝、排泄されていくので、同じようなPK曲線を取る。ギャップなし。

 

病理結果は興味深い。

racemate, eutomer群ではDose依存性に僧帽弁組織の重みが増大。

病理検査では、僧帽弁に結節状の変性が認められ、グリコサミノグリカンと繊維成分で構成されていると記載有り。これはまさに粘液腫様変性ということ?

他にもjet lesionと呼ばれる逆流や血流に関連した心臓内腔の病変が認められている。

controlと比較してpimo群でその病変は多く認められているが、controlにも3頭中2頭は病変が認められている

 

著者は考察でpimo特有の薬効による器質的変化ではなく、強心作用に起因した変化ではないかと論じている。事実、他の強心薬でも同様のjet lesionは認められていることから、これは頷ける。

 

一方で、pimoでどれくらいこの変化が促進されるのか?というと、この論文だけではなんとも言えなそう。

というのも今回トータルで30頭くらいの実験犬を扱っているが、controlに割り当てられているのはたった3頭だけ。ほかはすべてpimo群になっている。

比率でいうとcontrol:pimo=1:9なので、negative controlとしての検出力が弱すぎて、なにもしなくても一定の確率で生じ得る器質的変化なのか、pimo(強心作用)により上昇したのか、なんとも言い難いかなという気もする。

統計学的な検定や解析を実施していないのは好感が持てる。

おそらく著者らも質的研究を重視して、統計学的に論じるのに適さないデザインだとは承知しているのだと思う。

あくまでもpimo群の数を最大限増やして、pimo群の中で質的に病態がどう異なるか、病理の知見を最大限取得することが目的だったのかもしれない。

今だからこそ、獣医学ではpimoの偉大さ、安全性、有用性は誰しもが十分に認識しているが、開発当初はその副作用や毒性が未知数だったんだなという歴史的変遷を感じる。

 

<論文感想>健常犬におけるピモベンダン溶液の単回経口投与の薬物動態と心機能への影響を評価したRCT

健常犬におけるpimo溶液単回投与の薬物動態と心機能への影響を評価した評価者盲検RCT

Yata, M., McLachlan, A. J., Foster, D. J. R., Page, S. W. & Beijerink, N. J. Pharmacokinetics and cardiovascular effects following a single oral administration of a nonaqueous pimobendan solution in healthy dogs. J. Vet. Pharmacol. Ther. 39, 45–53 (2016).

http://doi: 10.1111/jvp.12243

 

[intro]

pimo錠剤はCHFに有効だが、内服コンプライアンスが問題となることがあり、液剤含め様々な剤形のpimoがコンプライアンス達成に有効と考えられる

液剤型ピモベンダンのPK/PDは不明であるため、本研究では液剤pimoを経⼝投与したときの薬物動態・⼼⾎管系 への影響を評価

 

[method]

評価者盲検化RCTで、健常実験犬(ビーグル)8頭使用。

control群: 10ml⽔とpimo群: 0.27mg/kg pimo溶液にわけ、10h絶⾷したのち、薬剤内服して経時的に24hまでの心エコー検査と血中濃度を測定。

 

[Results]

薬物動態としては、pimoもその活性代謝産物(ODMO)も内服後1時間強でTmaxをと り、半減期は各0.9h, 1.6h。4-8h程度で⾎中から消失。

心エコー検査での心機能への影響としては、pimo内服後1-4h程度で陽性変⼒作⽤が増⼤し、5h程度持続。FS、LVIDDs、Max Ao velocityなど各種パラメータが整合性を持って動いていることが示されている。

 

[感想]

久々に基礎研究に近い論文を読んだ。

RWDと比べて、やはり背景の統制がしっかりされているので、バイアスや交絡が最小限に抑えられていそうなところはさすが。

さらに、この論文は方法の記述が非常に丁寧で抜かりがなく、ツッコミどころが全然なかった。

一方で、心エコーパラメータはかなり誤差が大きく変動しそうだが、(現にSDがめちゃ幅広い)有意差が出ているのは不思議。一般化線形混合モデルで曲線を書いているっぽいが、生データを示して動きを見てみたかった(8本なのでそこまでビジーな図にはならないと思うし。)

各種の結果も一貫性が有り、タイムスケールも一致しているのがきれい。サンプルサイズが小さく、エコーでの所見だがら誤差や測定変動がまあまあ大きく出ると思っていたので、綺麗すぎない?という穿った見方をしてしまうのは、悪い癖なのだろうか。

<論文感想>冠動脈バイパス再建術実施患者における術後出血/心タンポナーデの再探索の死亡リスク因子を探索したcase-control study

冠動脈バイパス再建術実施患者における術後出血/心タンポナーデの再探索の死亡リスク因子を傾向スコアマッチング(PSM)を利用して探索したcase-control study

 

Luan, T. et al. The death risk factors of patients undergoing re-exploration for bleeding or tamponade after isolated off-pump coronary artery bypass grafting: a case–control study. BMC Cardiovasc. Disord. 21, 204 (2021).

doi.org

 

<intro>

冠動脈バイパス再建術(CABG)はon-pump(ONCABG)とoff-pump(OPCABG)がある

ONCABGに比べてOPCABGのほうが様々な併発症リスクを減らすことができ、DM患者など特定の背景疾患を有する患者ではOPCABGの方が有益性があることが示されている

他方、心臓外科後の術後出血や心タンポナーデは致死的な進行を起こしかねない事象であるため、術後出血などが疑わしい場合は、再探索のための手術が行われる事が多い

しかし、再探索は、心臓外科において非常に悪い併発症の一つである

OPCABGを実施した患者のうち再探索が必要となる頻度は9-26%であり、再探索を行った患者の死亡率は27.6%であった

OPCABGを実施し、再探索が必要であった患者における死亡リスク因子を評価した研究はない

 

本研究では、OPCABG→再探索後の患者における死亡リスク因子を明らかにする

 

<method>

OPCABGを実施し、かつ出血or心タンポナーデによる再探索を実施した患者n=58を抽出

→死亡、生存の二群に分け、PS matchingで1:1に割付けて各群n=15ずつ抽出

出血or心タンポナーデによる再探索のクライテリア:

1)ドレーンから>200ml/h for 3hの排液

2)急性大量の出血

3)エコー上での心タンポナーデ確認

4)血液循環不全

 

PSmatchingに使用された術前説明変数:

性別、年齢、BMI、高血圧、DM、頚動脈硬化、大脳梗塞、Heart insufficiency、Respiratory insufficiency、Hepatic insufficiency、Renal insufficiency、MI発症から手術までの時間、cTnT、PCO2、PO2、術前乳酸値

 

*各臓器機能低下の定義(かなりゆるいものもあるので要注意):

心機能低下→LVEF<50%;

呼吸機能低下→PO2<83mmHg;

肝機能低下→ALT>50 U/L;

腎機能低下→Cre >132uM

 

 

アウトカムモデルではなく、曝露モデルであるPSを用いたPSMによるリスク因子解析

preopeのconditionを調整しているので、再探索後のpostope conditionがアウトカムに及ぼす影響を評価している

つまり、見たいリスク因子は、明示的に書かれていないが、再探索後のpost-operative variablesのリスク因子、ということ?

 

 

<Results>

再探索前後での乳酸値、cTnT, 再探索後のCre, 再手術時間、intra-aortic ballon pump (IABP), continuous renal replacement therapy (CRRT)、血小板輸血 が死亡に関連したリスク因子として見出された

 

<疑問>

今回実施しているPSは目的変数に再探索を設定し、説明変数を術前因子とした多変量ロジステック回帰を行っているということであっている?

今回の場合、再探索を実施した患者のみを集めており、再探索を行わなかった患者というものは存在しないので、再探索を受ける治療確率(=PS)は算出できないのではないだろうか?

とすると、結局何を目的変数としてPSを作成したのだろうか?

生死を目的変数としたらそれはPSではなくただのアウトカムモデルの多変量解析になるのではないか??

再探索以外に目的変数になりえるものってある、、?

 

うーん、難しい。Research Gateの論文コメント欄に質問を投げかけてみたが、返答はくるだろうか。。

 

ちなみにPSMについては以下の某有名ブログがとっても参考になった

www.krsk-phs.com

 

2023/9/27追記

色々考えたり、人に聞いたりしてなんとなく腑に落ちてきた気がする。

 

おそらく、今回のPSは、生死を目的変数としたアウトカムモデルのようなモデル設計なのかも。
PSMで術前因子が生死に及ぼす影響を排除して、生存死亡の二群間で術前因子の背景を揃えた形にしているのかもしれない。
その上で、再探索前後の因子からリスク解析を行っているのだろう。
PSは曝露モデルしかありえないとおもっていたが、原理的にはアウトカムモデルでも作成はできる。マッチングをしているという点で、普通の多変量解析とは異なる点である。

僕の想像でDAGを書いてみるとこんな感じ。

調整前DAG↓

再探索前/後コンディションと生死の経路が見たい因果経路(緑色)とすると、

術前コンディションが生死に関連しているため、backdoor path(赤紫色)が生じてしまっている。

ちなみに、OPCABG(冠動脈バイパス再建術)や再探索が白くなっているのは、調整済みを意味している。今回はOPCABG実施した上で再探索した患者のみセレクトしているから、調整済みと同じ扱いになる(はず)。

 

もしPSマッチングにより、生死の二群間で術前コンディションの背景因子が揃っている場合、術前コンディション→生死の経路が消失することを意味するから、

調整後DAGは以下のようになる↓

見事にBackdoor pathが消えて、目的の因果経路のみが出てきた。

 

多変量解析でリスク因子を解析をしていない理由として考えられるのは、
1)マッチングにより各群15例に絞られたため、多変量解析はそぐわないと考えて単変量解析を行っているの可能性。
2)DAGからみるに、再探索前・後の因子はすべて有向経路なので、調整が不要とみなしている可能性。

 

再探索前後の因子についてもPSを設定してアウトカムモデルで解析したらある程度妥当性が高まったかもしれないが、今回それを実行していないことを考えると、やはりDAG通りの仮定で解析を行っているのかもしれない。

 

面白い。

 

 

<論文感想>心臓外科手術後の死亡転帰に関する予測モデル3種類の性能比較を実施した論文

心臓外科手術後の死亡転帰に関する予測モデル3種類の性能比較を実施した単施設Retrospective study

https://www.jcvaonline.com/article/S1053-0770(20)31288-X/fulltext

Zhuo, D. X. et al. MAGGIC, STS, and EuroSCORE II Risk Score Comparison After Aortic and Mitral Valve Surgery. J. Cardiothorac. Vasc. Anesthesia 35, 1806–1812 (2021).

 

心臓外科後の予後予測モデルの比較研究。

従来より、STS、EuroSCORE2などの予測スコアモデルが臨床で活用されてきたが、簡単には評価しづらい項目(冠動脈の解剖学的分類、PH指標)があり、使いにくい側面があった

新しく考案されたMAGGIC risk scoreは様々な心血管リスクの予測スコアモデルであり、用いる項目がシンプルなので簡便に使いやすい点が魅力。一方で、心臓外科手術の予後予測性能のvalidationは不十分であった。

 

本研究では、三つの予測モデルの性能をAUC(C-statistics)で評価して、既存の二つのモデル(STS、EuroSCORE2)に比較してMAGGICが非劣性であることを示すことを目的としている。

 

三次高度医療センター(単施設)でのRetrospectiveデータを用いて、2009-2014年の間にMVRかAVRを実施したヒト患者における予後を3つの予測モデルで評価

-主要アウトカムは術後1年死亡の予測識別能(c-statistics)

-副次アウトカムは術後30日死亡のc-statistics

 

ちなみに、c-statisticsは患者をランダムサンプリングしたときに、該当患者で計算された予測スコアを用いてアウトカムを識別できる確率を指す。

理論的にはAUCと一致し、c-statistics=0.5はコイントスと同じ結果、=1で完璧に識別できていることを示す。

岡田先生のnoteがわかりやすい。

note.com

数理的にもう少し踏み込んだ内容であれば野間先生のセミナーハンドアウトもわかりやすい。(ネット検索していたら普通に拾えた)

https://www.ism.ac.jp/~noma/2018-12-07%20JBS%20Seminar%20Kyoto.pdf

 

 

結果としては、MAGGICは他二つの予測モデルと比較してAUCの数値が非劣性であることが示された。

 

感想。

思ったよりも予測識別能高くないなという印象。

30日死亡の予測では最も良いモデル(STS)でc-statistics=0.797でそれなりだが、他のモデルではMAGGICで0.721, EuroSCOREで0.688とパッとしない。

さらに1年死亡の予測になると一番高いSTSでも0.709まで低下する。

1年後の死亡予測なんて、相当難しいからそりゃそうだよな、、という感想。しかも心臓外科の1年後の死亡予測目的で作成したわけではないので尚更。

 

また、今回は識別能のみ評価しており、較正能(リスク発生確率の推定)については評価していない。

予測モデルにおいては、識別能だけでは予測性能をきちんと評価できないので、較正能もセットで評価するのがベスト。(上述の参考リンク2個が詳しい)

limitaionでも言及されていないので、物足りなさがある。もしかしたら、較正能はかなり成績悪くて、提示していないだけなのかも?既知のデータで絶対出せるはずだから、悪い成績であっても出してほしかったな。。Publication biasみを感じる。

<論文感想>人の心臓外科手術後の低拍出症候群の予後とリスク因子を評価したRCT post-hoc解析

人の心臓外科手術後に発生する重篤な併発症の一つ低拍出症候群(LCOS)の予後とリスク因子を評価した論文

Kochar, A. et al. Predictors and associated clinical outcomes of low cardiac output syndrome following cardiac surgery: insights from the LEVO-CTS trial. Eur. Hear. J. Acute Cardiovasc. Care 11, 818–825 (2022).

https://doi.org/10.1093/ehjacc/zuac114

 

心臓外科手術後かつEF低下患者におけるレボシメンダンの有効性と安全性を評価したRCTのpost-hoc analysis 

 

  • LCOSに関連した術前リスク因子の分析 (Table3)
    →多変量解析;共変量は単変量→stepwiseで機械的に選択
  • LCOSの有無と90日までの全死亡の関連を評価 (Fig1)
    →KM曲線+log-rank検定(Crude)
  • LCOSの有無が90日までの全死亡に及ぼす影響を交絡因子調整してHR算出 (Fig2)
    →Cox回帰(Adjusted);共変量は事前に選択した因子を使用
  • LCOSの有無と様々なclinical outcomeの関連を評価 (Table4)
    →2群比較(Wicoxsonやχ2検定) 

 

LCOSのリスク因子解析→打ち切り含まないので多変量解析で実施;

LCOSの臨床アウトカム解析→打ち切りデータを含むのでCox回帰で解析

 

と使い分けているところが自分の研究の参考になった。

 

一方で、共変量の選択基準の使い分けが謎。

Cox回帰では(おそらく)医学的知見に基づいて共変量を選択し、調整しているにも関わらず、多変量解析では利用できるすべてのbaseline変数を単変量解析して、stepwiseで機械的に共変量を選択していた。

 

一般的に共変量選択の方法は様々あるが、何を選ぶべきか悩ましい。

因果推論の文脈であればDAGを書いたりドメイン知識ベースに選ぶのがいいだろうが、
予測モデルであれば精度が高い結果になるならあまりドメイン知識ベースは不要で、統計学的な関連性だけで機械的に選ぶのも一案なのかと思ったり。

本論文では、多変量解析はリスク因子の探索という目的だと思われるが、その場合は機械的に実施でも良いのだろうか?そもそも、リスク因子探索って、結構曖昧な概念だが、リスク因子の延長線で結局興味があるのは因果関係なわけだから、因果推論ベースで解析を行うべきなのではないだろうか?

もしリスク因子の探索=因果推論の文脈であれば、因果を明らかにしたいX→Yの経路において、調整すべき交絡要因を仮定してそれらを共変量として組み込むべきなので、興味のある因果の種類によって調整する因子も都度変わってくるはず。すなわち、個々のX→Yごとに組み込む共変量も変化するはず。

そういう意味では、広く行われているリスク因子探索のための多変量解析(色々な因子を多変量に組み込んでたくさんのリスク因子をあぶり出す)のコンセプトは破綻している気がするなあ。。興味のある任意のX→Yの因果経路が仮定にないわけだから、何の解析をしているのか意味わからんことになる。

そこで得られた結果は、あくまで統計学的な関連性の高さだけであり、それって結局因果推論になんら寄与をもたらさないけど、なんのために行ったの?ってことになる。

ここからは、いわゆるTable 2 fallacyという問題にいきつく。

Table 2 fallacyについては、後藤先生のnoteがとてもわかり易い

note.com

因果推論を学んで解像度が高くなるほど、医学研究で広く行われている解析の目的が不明瞭なことに気づく。面白いなあ

<論文感想>平均への回帰(Regression to mean)現象の実践的な対処法についてのチュートリアル論文

平均への回帰(Regression to mean)現象についての統計学的な説明と対処法について解説したチュートリアル論文

Barnett, A. G., Pols, J. C. van der & Dobson, A. J. Regression to the mean: what it is and how to deal with it. Int. J. Epidemiology 34, 215–220 (2005).

https://academic.oup.com/ije/article/34/1/215/638499

 

Clinical Prediction modelの教科書を読んでいてRegression to meanという用語が出てきたけど、なんとなくわかるようなわからないような、という感じだったので、ちょうどよく解説論文があったので腰を据えて読んでみた。

少しだけ理解が進んだ気がするが、まだ不十分。回帰モデルは難しい。。

 

ーーー

平均への回帰(Regression to mean; RTM)はランダムエラーにより生じる統計学的な現象。

観測を繰り返すごとに得られる観察値は真の平均値に近づくというもの。

一見当たり前の現象だが、なんらかの治療介入を行う前後で観測値の比較をするときに問題になることがある。

介入前後で観測値の確率分布がほとんど変わっていない(介入に効果がない)にも関わらず、RTMの影響であたかも介入前から介入後で値が変化する(観測を重ねるごとに値が真の平均値に近づいただけ)ことがあり、RTMの影響を真の介入効果と誤解釈する可能性がある。

 

RTMの存在を確認する方法:

横軸にbaseline、縦軸にbaselineからの変化量を取った散布図を作成。

観測されたbaseline値が元の分布の端に位置するときにより効果量が大きくなる場合、RTMが示唆される。

 

RTMの影響を低減する方法:
<研究デザイン時点>
・ランダム割付
・一時点で複数回測定を行い、平均値を採択するか、二回目以降の値を採択する

<データ解析時点>
・RTMの影響量を算出することでRTMの影響を調整した効果推定値を出す
・ANCOVAを使用する方法

 

RTMはランダムエラーによりどんな変数でも生じ得る現象なので、介入や曝露の前後で何らかの変化量が認められたときに、それが介入や曝露の影響と考える前に、RTMによる影響なのか否かを考慮する必要がある。