備忘録 as vet.

日々のアイデア、疑問など備忘録的に書きます。Scienceが好きです。

<論文感想>急性CHFの犬における利尿薬投与後の尿中Na濃度と治療効果の関連性を評価したretrospective study

急性CHFの犬におけるフロセミドIV後のurine Na濃度と治療効果(酸素投与時間)の関連性を評価したretrospective study

Convey, V. et al. Urine sodium concentration after intravenous furosemide in dogs with acute congestive heart failure and correlation with treatment efficacy. J. Vet. Intern. Med. (2023) doi:10.1111/jvim.16955.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16955

 

<intro>

  • 利尿薬反応性は、 ヒトの急性うっ血性心不全(CHF)の強い予後因子である
  • 犬での利尿薬反応性の評価は、臨床症状の改善や胸部レントゲンの改善など、主観的・半定量
  • 利尿自体の定量的評価として、尿量、体重の減少などがあるが、これらはうっ血の改善に必要なNa利尿を定量しているわけではない
  • ヒトの急性CHFでは、尿中Na(uNa)の一点測定が利尿薬反応性の定量評価として用いられており、low uNaは利尿薬抵抗性の負の予後因子である
  • CHF犬におけるuNaの臨床的意義は不明
  • 本研究の目的: 
    1. フロセミドIV後のCHF犬におけるuNaと治療歴、他の血液生化学検査との関連性を評価
    2. uNaとうっ血改善率(高濃度酸素投与の離脱成功; DCSO2)の関連性を評価
  • 仮説:
    CHF犬において、フロセミドIV後のuNaは入院期間中のDCSO2、酸素投与期間(timeO2)と関連する

 

 

<Methods>

  • 対象:
    ペンシルバニア大学動物病院救急科に来院した急性CHF犬
    • 組入基準は、フロセミドIV後30-540min以内にuNaが計測されていることなど。
    • 除外基準は、フロセミドCRI、入院期間中の診断変更、酸素投与不使用
  • アウトカム:
    酸素療法離脱期間(DCSO2)
  • デザイン:
    単施設Retrospective study

<Results>

  • 多変量解析を用いたuNaと関連する背景因子の探索では:
    • serum Cl(正の相関)
    • PCV(負の相関)
    • 利尿薬の自宅処方有り(負の相関)

          ※Backwards stepwise →AICで変数選択

  • uNaと酸素離脱との関連性は:
    • uNa ≧87mM群は <87mM群に比べてDCSO2のHRが高く、酸素投与から離脱しやすい
    • uNa ≧87mM群は酸素離脱の累積割合が<87mM群より多く、死亡の累積割合は少ない
  • ちなみに...uNaの代わりに体重減少度合いと酸素離脱の関連性を評価してみたところ:
    ≧3.3%の体重減少と<3.3%の体重減少で分けてもDCSO2のHRは有意差なし
    (≧3.3%体重減少軍のほうがDCSO2しやすい傾向はある)

<Discussion>

  • CHFの改善には体重の減少だけでなく、uNaが重要
  • Na排泄を伴わない利尿(=低張性利尿?)の場合、体液量が減少しても間質から再度体液分布が生じるので、単に体重減少(=体液量の減少)がうっ血性肺水腫の病態の改善には繋がるわけではない
  • むしろ低張性利尿による細胞内脱水は腎機能の悪化リスク増加や症状改善の遅延などを引き起こす
  • 適切な利尿 (等張性or高張性?) が達成されるとき、体重の変化とuNaが強く相関すると考えられる
  • 観察研究のため、フロセミドの投与タイミングを制御できず、入院前にフロセミドIVが実施されているケースも存在する
    →異質性の増加になり、null 方向へのバイアス*1になるが、入院期間の定義を複数持たせて感度分析を行うことで、結果のロバストさを確認している

 

<感想>

最近読んだ論文で一番面白かった

研究の着眼点やテーマの面白さもさることながら、intro, discussionを通して利尿、体液バランスの勉強としてめちゃためになった。
単純に尿が出れば良い、というわけではなくNa性利尿がうっ血改善には大事、ということは(もしかしたら基本的なことなのかもしれないが...)目からウロコだった。


研究デザインがかなり凝っており、丁寧な記述なのも好印象。

特に、入院期間の定義を独自に設定しているが、その合理性を丁寧に記述し、感度分析も行っている以下の記述は自分の研究の参考になる。

In our study, we chose not to use the definition used in studies of humans because it could be influenced by variables related to our hospital workflow, such as time spent in waiting or examination rooms or other factors not related to treatment efficacy, such as when the owner could most conveniently pick up the dog from the hospital. In our study, we defined duration of hospitalization as timeO2, which represents the time from the start of supplemental O2 therapy to the time of DCSO2...

 

uNaが非侵襲的な検査であるのもgood。

しかも、測定タイミングがある程度幅広でも結果の一貫性は保たれており、使い勝手良さそうな印象。

実際、本研究ではフロセミドIV後のuNa測定タイミングはかなりバラけているが、結果のロバスト性は保たれていたし、先行研究でも同様な知見が得られている。


ただし、肝心のuNaの測定方法は未記載で、どうやって測定したのか知りたいところ。

ドライケムとかで普通に測れるもの?それなら明日にでも試してみたい。


 

 

*1:本当に?非差異的誤分類とかそういう話に関連するのかと思うが、個人的にはこの投与タイミングのズレはアウトカムや重症度合いと関連していそうなので、差異的な可能性を否定できない気がする

<論文感想>臨床疫学におけるTarget trial frameworkの原則と適用

臨床疫学におけるTarget trial frameworkの原則と研究応用に関するcommentary論文

 

Matthews, A. A., Young, J. C. & Kurth, T. The target trial framework in clinical epidemiology: principles and applications. J. Clin. Epidemiology (2023) doi:10.1016/j.jclinepi.2023.10.008.

https://www.jclinepi.com/article/S0895-4356(16)30136-6/fulltext

 

観察データから因果推論する目的で、観察研究を仮説実証型のRCTを模して捉え直すというアプローチをTarget trial frameworkという

 

RCTでは、明確で明示的なresearch question (RQ)が存在することが必要であり、観察研究のRQでも同様。そのために、RCTのプロトコルと同様の枠組みで観察研究を捉え直す必要がある:

  • 適格基準、治療計画、治療方法、アウトカム、follow-up、比較対象、解析手法などを明確にする
  • 利用可能な観察データでは上述のtarget trial frameworkのデザインに組み込めない(データ不足)場合、target trial frameworkのデザインを利用可能データが適合するまで考え直す必要がある
  • ブラッシュアップしたデザインが当初のRQに答えられない場合、手持ちの観察データではTarget trial frameworkでRQに答えられないので、別のデータソースを漁る必要がある

 

<target trial frameworkの利点>

RQの明確化だけでなく、観察研究における落とし穴(バイアスなど)の回避につながる
以下に、回避できる落とし穴について概説する


[1: 明確な治療計画の定義]

  • RCTのレポーティングガイドラインでは、興味のある治療計画(用量、期間、投薬中の条件など)について事前に厳格に設定することを求めているが、観察研究のレポーティングガイドラインでは、曝露に関して、RCTのレポーティングガイドラインと同レベルの厳格な設定に関する推奨がなされていない
  • この結果、実際の観察研究では曝露の異質性が高く、結果の解釈が困難になっていることがある
  • Target trial frameworkに則り、興味のある治療計画を明確に定義することで、興味のあるRQを解くために必要なシャープなエビデンスの創出につながる
  • 例として、乳がん患者における2種類のホルモン治療の効果比較を考える
    アロマターゼ阻害薬2.5mg/dayを5年間 or 副作用(骨粗鬆症、変形性関節症)の発現までの期間、内服を継続 v.s.
    タモキシフェン20mg/dayを5年間 or 副作用(子宮内膜増殖症、血栓症)の発現までの期間、内服を継続
    を観察データから比較することで、治療を完全に遵守した集団における2群間での平均的な治療効果(per-protocol effect)を推定することができる

[2: time zero(T0)の特定]

  • RCTでは、適格基準を満たした時点、アウトカムの観察を開始する時点と治療の割付時点が一致して、これをT0とするが、観察研究では治療の割付時点がほか2つの時点と一致するとは限らない
    →このT0の不一致はimmortal time biasやprevalent user biasをもたらす
  • target trial frameworkを用いることで、T0の誤りを構造的に直すことはできないが、時系列的な視点を取り入れることでT0のself-inflicted misspecification (immortal time biasやprevalent user biasのこと?)のリスクを減らすことができる
  • RCTでは、研究者は(当たり前だが)将来の結果を元に組入患者の適格基準を恣意的にいじったり、跡から割付を変更することはできない
  • 観察研究では、研究開始時点で集団の選択、割付、結果まですべてを一挙に知ることができるので、時系列に沿わない操作が可能になってしまっている
  • 当然、結果を見て恣意的に割付などを替えることは許されないので、観察研究においてもRCT同様の時系列に沿った意思決定を行うべきである
  • 一方で、観察データの場合、上述した時系列的な意思決定を行ったとしてもT0を適切に扱えない場合がある
    • 例1:
      適格基準に複数時点で該当する場合
      →対処法として、異なるT0を設定して、multiple nested target trialを行うことでtarget trial emulationが可能
    • 例2:
      一つ以上の治療を行っており、複数の治療群に当てはまる場合
      →打ち切りや複製、重み付けで対処することが可能

 

<適用>

target trial frameworkを使用した研究論文は2010で1本、2021で50本になった(→意外と少ない!これは、target trial frameworkに適用できる観察データが多くないということかも?)
詳細は割愛するが、CIVID19のmRNAワクチン効果など、観察研究でも適切で明確にcausal questionを問うことができ、自己起因のバイアスを回避することができた例がある。

 

<まとめ>

  • Target trila frameworkを用いることで、観察研究デザインでありがちな集団の曝露の異質性などに起因した結果の解釈の困難さに対して、臨床的な解釈可能性を高めることができ、immortal time biasやprevalent user biasなどのバイアスの回避につながる
  • 観察データからtarget trial emulatonを可能にするための明示化を行うことで、研究デザインに関連した基準に対する専門家同士の議論の基盤となる(このセンテンスは言いたいことがよくわからん)
  • RCTと観察研究の橋渡しとなることで、興味のあるQuestionに対する(観察研究、RCT含め)すべての研究のデザインの質を比較して評価する事が可能になる

<論文感想>遠隔転移を伴う下垂体癌の犬のcase report

下垂体癌が肝臓と脾臓に遠隔転移した犬の臨床経過、画像所見、病理所見を報告したcase report

NAKAICHI, M. et al. Clinical features and their course of pituitary carcinoma with distant metastasis in a dog. J. Vet. Méd. Sci. 82, 1671–1675 (2020).

www.jstage.jst.go.jp

自分が今執筆しているCase report論文の参考に読んだ論文。

 

ヒト医療では、遠隔転移を伴う下垂体腫瘍を下垂体癌と呼び、その発生率は下垂体腫瘍の中でも0.1-0.2%程度と非常に稀。

一方で、下垂体腫瘍は犬の脳腫瘍の中ではメジャーであるが、犬の下垂体癌に関する臨床的な報告はまだ無い。

今回の症例報告では、下垂体腫瘍と診断された11歳オスのトイプードルに対して、放射線治療を行い臨床症状のコントロールはできたものの、内因性ACTHの数値が依然高値を示したままコントロールされず、後に肝臓と脾臓に転移病変が見つかった一例について、臨床経過と画像所見、病理所見を合わせて報告している。

各種検査結果から臨床経過、剖検時の所見まで揃っているcase reportがあるのはかなりありがたい。

放射線治療で腫瘍性病変が組織学的に検出されなくなるまで下垂体腫瘍を叩けるんだというのが意外だった。化学療法で寛解維持している患者場合も、組織学的に検出できなくなるくらい腫瘍組織は縮小するのだろうか。

 

一般的にCase reportはあまり引用されず、Ressearch Articleに比べて地味な存在なのかもしれないが、経過が詳細に記述されていることも多いので、臨床医としては詳述がとても参考になるので、ありがたい。

被引用件数のみでみるとインパクトが少ないように評価されるが、Case reportは閲覧されることで実臨床にインパクトを与えているので、やはり引用件数だけの側面で一元的に論文の価値を決めるのは早計だなと思う。

Research articleのほうがCase reportより上、所詮Case reportなんで、みたいな主張はよく耳にするが、目的や方向性の異なる論文を比較して論じること自体、論文の意義を誤解しているよな、と思う。*1

*1:Evidenceの質、という文脈ならその主張はわかるが、異なるsettingもまとめて主張する言説が大いにあるのが気になる

<論文感想>CHF既往歴のあるHCM/HOCM猫におけるピモベンダンの効果を評価したRCT

CHF既往歴のあるHCM/HOCM猫におけるピモベンダンの効果を評価したRCT

Schober, K. E. et al. Effects of pimobendan in cats with hypertrophic cardiomyopathy and recent congestive heart failure: Results of a prospective, double-blind, randomized, nonpivotal, exploratory field study. J. Vet. Intern. Med. 35, 789–800 (2021).

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16054

 

直近60日以内にCHFを経験したHCM猫に対してpimobendan投与することが、その後180日間における病状の悪化(=フロセミド増量が必要になる)を抑制したかどうか評価したRCT

ベトメディン(ベーリンガー)が最終著者に入っている臨床研究。

  • P: 60日以内にHCM起因CHFを発症した猫
  • I: pimobendan(Vetmedin flavour tablets, 0.3mg/kg BID)
  • C:Placebo  *フロセミドとクロピドグレルは併用許容
  • O:
    • primary
      • フロセミド増量or研究離脱
    • secondary
      • 研究離脱,心臓関連死亡,フロセミドの初回増量,フロセミド>10mg/kg/dへの増量,CHFによる入院,フロセミド,クロピドグレル以外の加療必要,ATE発症,LCOTOの増悪...までの時間
  • S: 多施設RCT

*exploratory study exploratory(non-pivotal)のためサンプルサイズ計算はせず、40例/groupを暫定的に設定した

*inclusion criteria: BW >=2kg, age >=12mo, BT項目の一部が基準範囲内であることなど

*動的LVOTOの定義: 収縮期最大圧較差が>=30mmHgであること

 

<results>

  • 患者背景(年齢、性別、BW、診断からの時間)は2群で均等
  • RR, LVIDs,E/Aはやや偏りが有りそう
  • pimo/placebo内服後の圧較差の変化はHCM/HOCMどちらも二群間で差なし。 ただし、HCMでは変化率はほぼ0だが、HOCMではやや増加
  • HOCMgroupにおいて、180日までの経時的変化では、圧較差は二群ともに減少の兆し。ただし、180日目までendpointに到達しなかった症例のみ解析している
  • ORはBaseline時点での各種治療(有無?)、 LVOTO、性別、年齢、BW、拡張機能、フロセミド用量で調整をかけた調整済みORとして算出。
  • 180日時点でエンドポイント未到達のORは両群ともに有意差なし。点推定値は0.855とややpimoでエンドポイントに到達しやすい(=悪化しやすい)という結果だが、95%CIはほぼ均等に1からのびているので、効果に関しては結論がつかない。
    一方で、LVOTOの有り無しで分けて解析した場合、LVOTO有りgroupでは点推定値が0.267と更に下降しpimo群で悪化の傾向があった。LVOTO無し群では点推定値が2.118と上昇し、pimo群で有利な結果となった。(Table3, Fig4)
  • このサブグループ解析と同様の傾向は、Time to eventのCox回帰(HR)でも認められ(Fig.5,6)、全体で見ると二群間に差はないが、LVOTOの有り無しで見ると二群間で真逆の結論が導かれる。
  • すなわち、HOCMの猫にpimoを投与すると、病態が悪化する時間が早くなる(フロセミド増量の時間が早くなる)一方で、Non-LVOTOのHCM猫にpimoを投与すると病態の悪化までの時間が延長する、という結果である。
  • Fig.7では心臓関連死亡or心臓関連安楽死orフロセミド10mg/kg/day以上の増量に到達した時間の複合エンドポイントでの生存解析を行っており、 全体では二群間に差は無しLVOTOの有り無しについては解析しているようだがグラフの明示なし。本文中の言及を見ると、LVOTOの有り無しのサブグループでの二群間のp-valueのみ記載があり、ともにp=0.48, p=0.5と有意差なし、となっている。

 

<感想>

ここまでの結果を見ると、pimoはNon-LVOTOのHCM猫には有用かもしれないが、HOCM猫にはむしろ予後を悪くする可能性があるのであまり使いたくないな、という印象。

今回最終著者にベーリンガーの社員が入っていることを念頭に置かなければならない。

研究デザインに関しては、論文中の記述も含めて質が高くて誠実だなと思ったが、 結果と考察に関しては、ベーリンガーの恣意性が入って完全に中立な言及にはなっていない印象。

具体的には、本文ではnon-LVOTOの有用性は考察しているものの、

  1. HOCMにおけるデメリットの可能性は言及していない点;
  2. Fig7で複合エンドポイントに関する生存解析ではsubgroup解析をしているにも関わらず、Fig.5,6のようなサブグループごとの生存曲線の明示はなされておらず、p値のみの報告にとどまっているので著しく情報量が少なくなっている点。

ハードアウトカムの死亡に関する生存解析はとても重要なので、サブグループ解析でももっと情報が欲しかった。

本文での論文全体の結論としては、

In conclusions, addition of pimobendan to furosemide with and without clopidogrel in the treatment of cats with HCM and recent CHF had no effect on 180-day outcome in our study. However, the study suggests that cats with nonobstructive HCM and recent CHF might benefit from pimobendan whereas cats with LVOTO might not. Overall, concerns that the use of pimobendan in cats with HCM with or without LVOTO potentially might worsen outcome seem unfounded. Considering the heterogeneity of cardiomyopathy in cats, it is possible that some, but not all, subpopulations of cats with HCM might benefit from treatment with pimobendan. Given the general lack of approved treatments for cats with HCM, identification of these subgroups and a more tailored approach to treatment are needed.

とあり、言い回しをかなりこねくり回して、結果に対する嘘はつかないけど、ベトメディンの印象をどうにか悪くさせないぞ、というベーリンガーの気概を感じる。笑

<論文感想>急性うっ血性心不全の犬猫における入院時電解質濃度と退院時/死亡前の利尿薬用量、予後の関連

急性うっ血性心不全の犬猫における入院時電解質濃度と退院時/死亡前の利尿薬用量、予後の関連を評価したretrospective study

Roche-Catholy, M. et al. Clinical relevance of serum electrolytes in dogs and cats with acute heart failure: A retrospective study. J. Vet. Intern. Med. 35, 1652–1662 (2021).  

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16187

 

急性心不全の犬において、入院時の低Cl血症は退院時or死亡前の利尿薬用量と強く相関し、低Clは重症度のマーカーとなりえるかも、という論文

 

 <intro>

  • うっ血性心不全患者ではRAAS活性化, バソプレシン機構活性化、利尿薬使用による電解質異常が生じる
  • 低Naが心不全患者における強い負の予後因子であることはわかっている
  • 近年、Cl濃度はNaよりもさらに密接に心不全の予後に関わっているという事がわかってきた
  • ClはNaと連動して濃度が変化する単なるpassive anionではなく、心不全の病態生理に重要な役割を担っていると考えられている
  • ClがCHF犬の重症度(特にstageD)との区分けに重要な因子であることが明らかになり、利尿薬抵抗性と低Clの関連性が示唆される
  • しかしながら、急性うっ血性心不全の犬猫におけるClと重症度の関連性を評価した研究は不足している
  • 本研究の目的は、急性うっ血性心不全の犬猫における
    1)来院時の電解質異常
    2)電解質と利尿薬用量の関連
    3)電解質と生存期間、入院期間との関連   を評価すること

<results>

  • 急性CHFの犬において、入院時のCl濃度は退院時or死亡前の利尿薬Doseと負の相関
  • その傾向は、入院時まで利尿薬を使用していないsubgroupでも同様に認められた
  • 特に犬では、Na,Kと比べてClは強い負の相関性があった
  • 猫ではCl濃度と利尿薬Doseに相関性は認められなかった
  • Na,K,Clは心臓関連死亡と関連しなかった

 

<感想>

研究アイデアが面白い。影が薄くなりがちなClの重要性に注目した論文。

Na,Kは色々な病態で動くし着目することが多いけど、Clはおざなりになりがち。

実際、introで言及があるようにClはNaと共同で動く受動的な陰イオンっていうイメージが強かったので、ぶっちゃけ臨床的意義をそんなに理解していなかった(不勉強)

 

今回はそんなClが実は心不全の将来的な重症度(=利尿薬用量)と関連があるのではないか、という研究。

解析方法はシンプルで、入院時のClと退院時(あるいは死亡前)のフロセミド用量との関連をノンパラメトリック相関係数を算出するというもの。

ノンパラ(順位相関係数)にした理由は言及ないが、外れ値の影響を受けすぎないような解析手法にしたかったから?

今回は単純な単回帰モデルで関連性を評価して議論するやり方だけども、ふと多変量回帰にしなかったのはなぜだろう、と思った。そもそも今回の研究では入院時Cl→利尿薬用量の因果関係を明らかにしたいわけではなく、単純にClが将来の利尿薬用量を統計学的に説明可能か?(言い換えると、Clで将来の利尿薬使用を予測可能か?)というところに興味があるからなのかもしれない。

まだ単変量・多変量解析の深淵を理解できていないので、薄い考察になってしまうが、あるアウトカムの予測そのものだけに興味がある場合、Clがどれだけアウトカムを説明できるか?(予測できるか?)は単変量解析で十分に目的を果たしている。さらに予測精度をあげるためには、他の様々な変数を組み込んで説明可能性を高めていく必要があるが、今回はそもそも予測精度にはこだわっていない(それ故に予測性能の評価を行っていない)。あくまでも電解質が、将来の利尿薬使用をどれくらい説明できるのか?を解いている形になるので、単変量で十分ということなのだろう。

今回の結果を仮説として、Clと重症度の因果推論を行ってもいいし、精確な予測のための予測因子として組み込んでも良いかもしれない。そういう足掛かり的な研究として意義深いのだと思う。

<論文感想>敗血症性ショック患者における中心静脈圧が短期死亡とAKI発症に及ぼすリスクを解析したRetrospective study

敗血症性ショック患者における中心静脈圧(CVP)と28日死亡/AKI発症の関連性を評価したRetrospective study

Xiao, W. et al. Early persistent exposure to high CVP is associated with increased mortality and AKI in septic shock: A retrospective study. Am. J. Emerg. Med. 74, 146–151 (2023).

http://doi: 10.1016/j.ajem.2023.09.043

 

CVPはtime-varying exposureとして扱いtime-weighted averagesを算出して解析に用いている

→TWA-CVP time-varying TWA-CVPをexposureとして

Primary outcome:28日死亡; Secondary outcome:AKI発症 を評価

 

piecewise exponential additive mixed models (PAMMs)を用いて、時間依存性曝露因子であるTWA-CVPのtime-to-event outcomeへの影響を評価:

CVP >12cmH2Oが死亡リスク増加のcut-offと定義=High CVP

 

1)ICU入院中にHighCVP状態に一度でもなったか

2)HighCVP状態にどれくらいの時間曝されていたか の2パターンで曝露状況を定義

 

[results]

・High CVPの曝露時間が>20%(>5h)

・PS matching, IPWで交絡調整を行った場合でもHigh CVPに曝露された場合の28日死亡/AKI発症のHRは有意に高い

・High CVPはCre上昇よりも尿生成量減少を介してAKIリスクを上昇させている

 

 

[感想]

やりたい手法盛りだくさんですごく参考になった、、

・曝露因子を連続変数として平滑化スプラインで表現している点:
今回はpiecewise exponential additive mixed models を使っているみたいだが、知らないモデルなので深掘りしてみようかな
 
・時間依存性変数を扱った解析を行っている:
time-weighted averagesがなんぞやって感じなので要勉強
 
・PSM,IPWの手法で因果推論をした上に、AKIの媒介分析も行っている:
媒介分析は因果のメカニズムを解明する手法として注目していたので個人的にはアツい話題。
 
トップジャーナルの観察研究となると、本当に色々な手法でてんこ盛りに解析するんだなあと関心。
でもここまでたくさん結果があると言いたいことのピントがぼやけそうなので、一層論理とストーリー構成がかなり重要になってくるなとも思った。

<論文感想>LevosimendanのAcute HFの各種病態に対する治療と他の強心薬との比較に関するreview

レボシメンダン(LSM)の急性心不全への適応に関するレビュー論文

Glinka, L., Mayzner-Zawadzka, E., Onichimowski, D., Jalali, R. & Glinka, M. Levosimendan in the modern treatment of patients with acute heart failure of various aetiologies. Arch. Méd. Sci. : AMS 17, 296–303 (2019).

 

https://doi.org/10.5114/aoms.2018.77055

 

<LSMの薬理作用>

1)TnCのCa感受性増大 →酸素消費を増大させずに心筋収縮力増大 (Caの細胞内流入量増加 →心筋細胞内の酸素消費増加につながる)

2)血管平滑筋細胞におけるATP依存性Kチャネルの開口 →動脈、静脈、冠動脈の血管拡張

3)ミトコンドリアにおけるATP依存性Kチャネル開口→エネルギー利用効率(意訳)の改善 →酸素欠乏に対する抵抗性増加(?)

 

<LSMの臨床的効果>

1)心拍出量(CO)増加

2)Stroke volume増加

3)肺毛細血管楔入圧(PCWP)減少

4)肺血管抵抗(PVR)減少

5)平均肺動脈圧(MPAP)減少

6)全身血管抵抗(SVR)低下

 

<LSMのDose>

推奨量: 0.05-0.2mg/kg/min

second regimen: 6-12ug/kg/10min CRI
→顕著な血圧減少の可能性があるので推奨されない

 

<急性心不全>

-LSMは心筋酸素需要を増やさずに収縮力を改善する利点がある

-ドブタミンと比較して、血行動態への効果は同等だが、LSMは酸素消費量を増加させず、催不整脈作用は低かった

 

<右心室不全>

LSMは肺血管拡張→右心の後負荷減少→右心収縮改善、PCWP減少、右心冠動脈血流改善

 

<周産期心筋症, たこつぼ心筋症、stunned myocardium 仮死心筋>

たこつぼ心筋症

ストレス起因の高濃度の血漿中カテコラミンがたこつぼ心筋症を誘発と考えられている
→LSMはカテコラミンを上昇させずに心機能を改善する可能性があると考えられる

 

仮死心筋:

アドレナリン受容体の感受性増加、全身性炎症反応が原因と考えられている →β1受容体のdown-regulationなどから従来の強心薬は効果的でない

 

<Caチャネルブロッカー中毒>

Caチャネルブロッカー中毒は、心筋細胞へのCa flowの阻害による収縮不全
→心原性ショック LSMによりCaの心筋細胞内流入の改善を起こすことで、Caチャネル受容体とは別の経路で中毒に対する改善を引き起こす

 

<敗血症性ショック>

-LeoPARDSという比較試験では、sepsis shockに対する有益性は得られず

-むしろ上室性頻拍と人工換気の期間がLVM群で延長し、高用量のノルアドレナリンが必要だった

 

<LSMの副作用>

頻脈、低血圧、不整脈、低K血症、頭痛 、めまい、不眠、消化器症状

プロダクトシート(?)によれば:

低眼圧、頻脈、不整脈電解質異常患者への適用は推奨されない

 

が、実臨床では...

急性心不全患者で上記の条件がない患者などいないので、

-低K血症、循環血液量低下、SYS 100mmHg<へ補正を行った後に、LSMの使用を推奨

-著しい腎機能低下(GFR <30ml/min)、肝機能低下患者への適用は推奨されていない
→肝機能低下のボーダーラインは決まっていない

しかしながら、LSMは臓器還流を改善することで多臓器の機能を改善することがあるので、個々の患者に合わせて行く必要がある